第104話 追跡者を躱すJK

コンビニ店の駐車場。


 加藤理子は車が飛び込んできたコンビニ前に居た。

 彼女の予想では最初は恐いおじさんを使って脅しに来ると予測していた。

 ところが、力の行使という直接的な手段に出てきた。


(焦りだしてる……)


 彼らを追い込んでいる手応えを感じていた。

 そこで、車の実行犯を見張っている車がどこかに居るはずだと外に出ていたのだ。


(ああ、アレか……)


 黒いバンが停まっているのが見えていた。中には二人男が座っている。人相までは見えないが監視役であろう。


(ん? 向こうにも居る……)


 建物の脇から単眼鏡で、此方の様子を伺っている少年がいるのに気が付いた。

 直ぐに建物の影に隠れてしまったが、あれはカラオケ店に侵入していた少年に間違い無い。


(誰? あの子……)


 偶然で無いのは間違いない。一瞬だったが感じた雰囲気が少年を追いかけ回した日を思い出させた。

 その挙動不審ぶりに戸惑ってしまうが、単眼鏡を使っている所を見ると監視しているのは間違いなかった。


(ブラックサテバの仲間? 違うみたいね……)


 だが、彼らの仲間では無さそうだと推測した。

 仲間であるのなら、監視をしている車と別行動している理由が分からないというのもある。

 ならば、別件で自分を尾行している事になる。


(何で私を尾行してるの?)

(そして…… 誰?)


 どうやらリコがディミトリの存在に気が付いてしまったようだ。



 翌日。リコは学校でブラックサテバの一人である土田を付け回していた。

 近づき過ぎずに彼の視界に入るようにしていたのだ。やがて、焦れた土田がリコの目の前に立ちはだかった。


「オマエは何なんだよ!」


 土田が顔を赤くしている。どうやら怒っているらしい。もっとも、これ見よがしに尾行されて気分の良い奴はいないもんだ。

 怒りの余り直情的に行動してしまうタイプのようだ。もっとも、それを見通して分かりやすいように付け回しているのだ。


「私…… 知ってるよ?」


 これは尋問者が行う一般的な手法だ。曖昧な質問をして相手の反応する様子を見る。そして、包囲網を縮めるように次々と質問をして、答える矛盾点を炙り出していくのだ。最終的には矛盾点を追求させられた相手は陥落させられる。


 女性がパートナーの浮気を調べるのに使う手法でもある。

 相手が後ろめたい事をしていると、些細な事でも挙動不審に成ってしまうものだからだ。決して経験談ではない。


 土田は案の定怪訝な表情を浮かべてしまった。それは、どの事を言っているのか分からなかったからだ。

 彼はこの質問に該当することを幾つもしているのだ。


「もうすぐ取引があるんでしょ?」


 リコの決定的な一言に土田は顔が青褪めた。


(何で知っているんだ?)


 それは自分たちブラックサテバしか知らない情報であるはずだ。その事をこの女は知っていると言っている。

 土田の様子に満足したリコはくるりと踵を返して立ち去っていった。土田は唖然として見送っていた。


 その日の放課後。リコは帰宅しようとしていた。

 すると、コンビニで見かけた車が自分の跡を付けて来ているのに気が付いた。


(車ね…… 身柄を攫おうってかしら……)


 土田に発した一言が引き金になったに違いない。自分の思い通りに進んで行くのでリコはほくそ笑んでしまった。



 そのリコと車の後をディミトリは追跡していた。もちろん、学校でもリコを見張っている。もっとも、ブラックサテバの連中を見張るついでだ。


(土田と言い争っていたから何か有るなと思っていたらこれか……)


 恐らく、リコが何か焚き付けたのであろう事は容易に推測できた。

 リコと別れた後に、土田が電話を掛けているのを見ていた。きっとコンビニの脅し程度では無理だとでも言ったのであろう。


(こりゃー、ガラを持って行かれるな……)


 リコの後を車が着いていき、その後ろをディミトリが追いかけるという構図になってしまった。

 当人は何も気にしていないのか駅の中に入って行った。車で追いかけていた連中も一人が降りて駅に入っていく。ディミトリも追いかけて駅に入った。


 駅に入ったリコは通路を右に左にとフラフラ歩いている。そして、駅のホームに行った。

 途中で鏡やショーウィンドウに自分を映す振りをして、追跡者の存在を確認するのを怠っていないようだ。


(追跡を躱そうとしているのか?)


 リコは来た電車に乗っていった。追跡している男も同じ電車に乗った。

 ディミトリは隣の車両に乗り込み連結部分からそっと様子を伺っていた。予定ではムツミの行動を観察する予定だったのだが、こっちの方が面白そうだったのだ。


 するとリコはディミトリが居る車両に移動して来てドアの所に立った。いきなりの展開だったのでディミトリは戸惑ってしまった。

 追跡者はリコに続いて車両に入ってきた。


「……」


 ところがリコは意外な行動に出た。


 追跡者を睨みつけていたのだ。


「!」


 自分の尾行がバレたと理解した追跡者は電車の中で固まっしまった。

 相手がそんな行動に出るとは誰にも想像が付かないから対処の方法が思いつかなかったのであろう。


(へー、追跡者を躱す方法を知っているのか……)


 これは特殊部隊に配属された時に教官に教わった方法の一つだ。これをやられると追跡者が一瞬怯んでしまう。

 そのすきをついて逃げ出すなり倒すなり反撃にでる事が出来るのだ。


(何者だ?)


 追跡者を躱す方法は素人がやって出来るものでは無い。それは危険だからだ。

 追跡がバレたと知った追跡者は、対象を確保しようと暴力に訴える可能性が高いのだ。


(つまり、格闘戦に自信があるという事か……)


 そんな事をしている内に電車は隣の駅に着いた。リコは電車を降りる。しかし、電車を降りて直ぐに振り返って追跡してきた男を、再び睨みつけていた。彼がバツが悪そうに下を向いている内に電車は発車してしまった。


(をーー、お手本のような追跡の振り切り方だね)


 ディミトリは関心していた。

 リコはそんなディミトリの思惑を知らないのか、何も無かったかのように駅を出ていった。


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