第99話 新たな監視ノード
ディミトリの新しい自宅マンション。
守居たちの監視を終えたディミトリは、隠れ家に立ち寄って自宅には深夜帰って来ていた。
そのまま疲れて眠ってしまった。
そして、翌日に学校から帰宅したディミトリは前日の動画を再生していた。
殿岡睦美が行った口座番号の入力とパスワードの入力を解析するためだ。
(まあ、解析と言っても動画を見ながら、指の動きを推測するだけだがな……)
その作業自体は難しいことではない。十分もあれば番号を判別することが出来たのであった。
(ふっ、俺に不可能の文字は登録されていないぜ……)
次にディミトリは図書準備室の録画をHDドライブに移行させた。その際に早送りでチェックしたのであった。
動画の内容は無人の部屋が延々と写っているだけだ。元々、利用する者が居ない部屋なのだから仕方ない。
だからこそ、守居たちが隠れ家的に使っていたのであろう。
(なんだ?)
すると画像に違和感を覚えた。何かが違って見えている。
画面には無人の図書準備室が映されている。誰かが出入りしている気配は無かった。準備室のドア越しに差し込む陽の光が時間の経過を物語っていた。
(ん?)
途中で動画の早送りを止めてみた。
そして静止画になった画面を暫し見つめていると、違和感の正体に気が付いてしまった。
「何だコレ?」
ディミトリの口から思わず声が出てきた。
ここは剣崎が用意したマンションなので、監視カメラがアチコチにある。その為、ディミトリは独り言は呟かないように気をつけていたのだ。そうしないと、お小遣いゲット計画が台無しにされてしまう危険を感じていたのだ。
だが、それを忘れてしまうくらいに驚愕な出来事だった。
「…………」
画像を拡大してみるとスマートフォンが立て掛けてあるのが見えたのだ。
天井に火災警報器に偽装した監視カメラを仕掛けた時には気が付かなかった物だ。
(誰かの忘れ物か?)
だが、忘れ物にしては場所が有り得ない。それは図書準備室は守居たち以外は使っていないと思っていたからだ。
事実、今日は守居たちが昼休みに使った以外に人の出入りなど無かったのだ。
「……」
それに、スマートフォンが置かれた位置は下からは見えない筈とも思えた。
(誰かが監視している可能性が高いのか……)
ディミトリの他にも彼等を監視している奴がいる。まあ、国際的な麻薬取引なので、捜査機関が複数ある可能性もある。
問題は自分が関知していない事だ。お互いに牽制しあって、肝心の取引情報が台無しになってしまうのはゴメンだと思った。
(監視している者を捜す必要が有るのか?)
他の調査機関の存在はディミトリには知らされていない。
手っ取り早く剣崎に尋ねるのも良いが、とぼけられる可能性が高かった。
(あの、おっさんの『知らない』は信用出来ないからなあ……)
日本人の『できません』ぐらい信用ならない話だ。
ディミトリは腕組みをして天井を睨みつけてしまった。想定外の事なのでどうするか思案しているのだ。
(んーーーー、弱ったな……)
画面に向き直してスマートフォンを睨みつけた。
面倒事に為るのなら予め始末しておきたいぐらいだとも考えた。
(最近、考え方が物騒だな……)
ふと、そんな事を思ってクスリと笑ってみた。そして、動画の続きを早送りした。
やがて、図書準備室のドアが開いて誰かが入ってくるのが映った。
そこには一人の女子高生が写っていた。制服を着ているところを見ると学園の生徒の一人だろう。
スマートフォンが置かれた棚の下に椅子を運んできて登った。
きっと、件の監視カメラを設置したと思わしき人物に違いない。周りの様子を慎重に窺ってからスマートフォンを手に取った。そして、替わりのスマートフォンを同じ場所に置いた。
(バッテリーが切れかかっていたのかな?)
様子からしてもスマートフォンを回収しに来たようだ。どこからかスマートフォン用に電源を引いてある訳でも無さそうだ。単純に置いてあるだけ。なので、バッテリー切れかも知れないと思ったのだった。
そして、替わりの物を置いていくのは監視を続けるためであろう。つまり、日常的に守居たちを監視している事になる。
(誰だ? コイツ……)
ディミトリは動画を少し戻して彼女の顔を拡大してみた。
自分並みに手慣れた様子で仕掛けを行う女の子に興味を持ったのだ。それに、どこの誰なのかを調べる必要もあった。
「あ……」
ディミトリは女の子の横顔を見て思い出した。カラオケ店へ侵入した時に、自分を執拗に追跡してきた女店員なのだ。
(この学校の生徒だったのか……)
ディミトリは偶然など信じない。
この女の子とは、カラオケ店と学校と二箇所でニアミスしている。両方とも守居たちが関与しているのだ。
つまり、彼女は守居たちを監視していると確信したのだった。
(で……)
同時にディミトリは怪訝な表情を浮かべ始めた。
(何で、この女は守居たちを監視してるんだ?)
ディミトリの頭の上にデカイはてなマークが見えるようだった。
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