第92話 弱装弾
廃屋。
翌日、ディミトリは銃の整備をするために廃屋へとやってきた。
銃は定期的に整備してやらないと、油の固着などで動作不良を起こしてしまうからだ。何しろは物は弾が真っ直ぐ飛ぶ事すら怪しいロシア製と、軍の爆弾以外は爆発すると定評がある中華製の銃弾だ。念入りに整備してやらないといけない。
掃除などに使う道具は日本のモデルガンショップなどで手に入る。日本製のなので性能が良い。
(日本人が銃の市販を行わないのは、性能が良すぎて死体だらけに為るからなのだろうか……)
そんな事を考えながら一通りの手入れが終わりディミトリは次の作業を始めた。
今日は銃の手入れの他にやっておくことが有る。それは弱装弾の自作だ。
装填薬を減らすと弾丸にかかる圧力が減る。結果として銃口から飛び出す時の音を減らせる効果がある。他にサプレッサーにかかる負担が減り、寿命を伸ばす事が出来るなどのメリットもあるのだ。
サプレッサーには弾丸が通る穴が開いている。この穴は強化ゴムで蓋がされている。こうしないと穴から音が漏れてしまうのだ。
勿論、ゴムなので何発か撃っていると壊れてしまう。結果として音が漏れてしまう。この構造がサプレッサーの寿命が短い言われる所以だ。
(失敗したな…… 3Dプリンターも持ってくれば良かった……)
短期の予定だったので自室の物は殆ど置いてきてしまった。
持ってきたのは着替えと携帯用火器だけだ。銃を持ってきたのは剣崎に内緒だ。
自作のサプレッサーも持ってきたが、前回使用した感じでは十発程度で音が漏れ始めたようだ。
(まあ、見様見真似で作っただけだからな……)
他にも個人で手に入る材料などにも問題はある。だが、適切な材料を手に入れる伝手が無いので我慢しているのだった。
(予備をもう少し作っておけば良かった……)
壊れた時用に次のサプレッサーを用意する必要がある。だが、市販品では無い。そもそも銃大国のアメリカですら販売禁止にしている代物だ。なので、その制作には3Dプリンターが必要であった。
(持ち込んだら剣崎のおっさんに目的がバレてしまうしな……)
いずれ自宅から持って来るか、通販で購入しようかと考えながら拳銃から弾倉を外した。
そして、弾倉から銃弾を取り出し万力に挟んだ。ペンチを使って薬莢から弾頭を慎重に外した。それから、薬莢を傾けて装填薬を三割程減らした。こうして弱装弾と呼ばれる弾種を作成するのだ。
(これで良いはず……)
これは懇意にしていた特殊部隊の隊員から聞いた方法だった。
ロシア製の弱装弾はブローバックしない事が多いので使い物に成らない。そこで自前で作成しているらしかった。
(弾が出るだけでもすげぇじゃねぇか……)
ロシア製の火器は取り敢えず動作するのは確かだ。ただし、正しく動作しない事が多い。
敵地に潜入するのを任務としている特殊部隊員は、手持ちの武器を改良する技術に通じていた。そうしないと生還出来ないのだ。
(肝心な時に動作しない武器に生命は預けることが出来ないわな)
弱装弾にもデメリットはある。対象に致命傷を与えるのが難しくなるのだ。
(まあ、その程度のデメリットを補ってみせるさ……)
相手の動きを止めた後にナイフで止めを刺せば良いのだ。ちょっと手間だが安全に制圧出来る。
だが、一番良いのは近づいていって頭を打ち抜くことだ。
(特殊部隊の連中に歩き方も教わったっけ……)
足音を立てないように注意しないといけないと教わったのだった。
(まあ、普通の時も音を立てない歩行癖が付いてしまったけどな……)
お陰で日頃から踵からではなくつま先から歩く癖がついてしまった。踵からだと体重が乗ってしまい音を立てる事が多い。その点、つま先からなら足全体をバネのようにして音を立て辛く出来る。これも特殊部隊の隊員に教わった歩行技術だ。
(軍隊辞めてからの方が使う機会が多いってのも何だな……)
ディミトリは苦笑をしてしまった。他には気配を消すとも教わったが良く理解できなかった。なので、息を止めるぐらいしか出来ていない。しかし、今の所それだけで事足りている。やる事と言えば他人の家への侵入ぐらいだからだ。
「ふぅー」
弾倉に入っていた分の弱装弾を作り終わったディミトリは一息ついた。暴発はしないように気をつけているが、それでも静電気などの脅威はある。
結構、神経を磨り減らしていたのだ。
「さて、次は電源を確保しようか……」
学校から帰宅して家電量販店に寄り道して非常用のソーラーパネルを買ってきた。コンパクトで持ち運びが出来るのが特徴だ。
これを廃屋の窓辺に置いた。ガラス窓越しになるので発電効率は悪くなるが、外に出して目立つわけにはいかないので仕方が無い。
それに自宅からバッテリーを大量に持って来るのもかったるいので、日中に充電させようと目論んでいる。
(俺がここに来るのは夜中だけだしね)
手元が照らせれば良いのであれば自宅から持ってくるバッテリーで足りるが、将来的には装備を充実させたいので電源確保をしたかったのだ。
「後は自宅でやるか……」
ディミトリは監視対象を見張る為に特殊な監視カメラを自作する事にしていた。スマートフォンを改造して遠隔で操作したいのだ。
スマートフォンを改造するのには、映像データの回収に手間取りたくないのもある。それにリアルタイムで監視出来るのもありがたい。
その工作なら家でやっても剣崎に不審に思われないであろう。
(早めに決着を付けて外国におさらばさ……)
ディミトリはニヤリと笑って帰宅の途に就いたのであった。
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