第51話 危険な路地裏

隣町。


 ディミトリはアオイの携帯があると思われる場所に来ていた。

 一見すると雑居ビルだ。繁華街という訳ではないが、メインの通りに面している。車や人の往来も多い。

 なぜ、ここなのかが謎だが、とりあえず反応はあるのでビルが見える場所に立っていた。


 都合の良い事に、付近にはスマートフォンを覗き込んでいる老若男女が沢山居る。何でもモンスターをハントするのがどうしたと話していた。


(ニホンと言う国には、街中にモンスターが居るのか…… 流石、何でも有りの国だな……)


 ディミトリには意味不明なワードだったが、雑多な人が居るので紛れ込むことが出来るのはありがたかった。

 彼は周りの人々に合わせて、スマートフォンを覗き込んでいる振りをしながらビルを監視していた。


 だが、人の出入りが少ないビルらしく、到着してから一時間が経とうとしているのに誰も出入り口に現れなかった。

 人の多い所で声を掛けて騒がれるのも面倒だ。後を付けて人通りの少ない頃合いを見て声を掛けようと考えていた。


(やはり、中に入って探したほうが早いのかな?)


 いい加減焦れて、中に入って探そうとした時に一人の女の人が現れた。


(あれ? アオイじゃない……)


 だが、それはディミトリの期待したアオイでは無く、妹のアカリの方だった。


(スマートフォンは彼女が持っていたのか?)


 彼女は駅の方向に歩いて移動しようとしている。目的は不明だが、ディミトリは後を付いて行こうと歩き出した。

 たぶんアオイと合流するのだろうと考えたのだ。違うようなら彼女に話を聞けば良い。


(ん…… なんだ?)


 だが、直ぐにある事に気が付く。それは、ディミトリが歩き出すと同時に動き出す車が居たのだ。

 ビルのガラス窓に映し出されている事に気が付いたのだ。


「……」


 そっと、後ろを見ると黒いサングラスした男が運転していた。車の窓にはスモークが貼られて中が見えないようにされている。

 中々に胡散臭い仕様の車だ。それでも、普通に過ごす人なら偶然かもしれないと考える。

 だが、ディミトリには色々と事情を抱えている。


(病院から付けられてしまったか……)


 その色々に思い当たる事があるディミトリは、車に載っている連中の目的は、十中八九自分であろうと考えた。


(参ったね……)


 アカリを見失わない様にしつつ、後ろの車にも注意を払わねばならなくなった。


(俺が追跡装置を外したのがバレちまったみたいだな……)


 肝心な時に現れる怪しげな車の存在は、追跡装置を外した事と関連があると考えるのが普通だ。

 追跡装置をディミトリに仕込んだのが中華系であるのなら、後ろの車も中華系に違いない。ならば、今回は銃撃戦になる可能性が高いなとも考えた。

 そんな怪しげな車がディミトリの後ろをゆっくりと付いてくる。


(んー、このヒリヒリと来る雰囲気……)


 ディミトリが好きな戦場の雰囲気だ。幸いにも今日は銃を持ってきている。


(良いねぇ…… 良いねぇ~、殺意が絡みついてくる感じがたまらねぇぜ)


 目の端で車の動きを追いながらディミトリは不敵な笑みを浮かべた。

 今回は楽しい戦いになりそうだからだ。


(さあ、どこで仕掛けて来るかだな……)


 ディミトリは通りにある建物を見ながら、どうやって逃げ出そうかを算段していた。

 出来れば隠れることが出来て服を着替える事が望ましい。襲撃される様子を目撃される可能性が高いので、服装の特徴を変える必要があるのだ。

 他にビルなどに付いている防犯カメラの存在も厄介だ。背格好などが記録されてしまうのも悩みのタネだ。


(ちょっと、街中は目立ちすぎるな…… でも、見失う訳にもいかなしな……)


 ディミトリが歩きながら悩んでいるとアカリが路地を曲がるのが見えた。

 ディミトリも少し遅れて曲がると、そこは人通りの無い路地であった。


(俺ならここで仕掛けるな……)


 すると不意に車のエンジン音が大きくなった。問題の車が加速して来ているのだろう。


(おお、マニュアル通りだね……)


 自分の予測が当たってディミトリはニヤ付いていた。


(さあ、お楽しみの時間だ……)


 ディミトリは懐に手を入れ銃を掴んで身構えた。


「ロックンロール(戦闘開始)」


 彼が小さく呟き眼付が冷たくなっていく。ディミトリは戦闘モードになったのだ。

 そして、車がディミトリの横に来たと思った時に銃を構えようとした。


「え?」


 ところが、車はディミトリを追い越して、アカリの行き先を遮るかのように停車した。

 そして、サイドドアが素早く開き、中に潜んでいた男がアカリの腕を掴んだ。屈強そうな男だ。


「きゃあああぁぁぁっ!」


 アカリの悲鳴が一瞬聞こえたが男の手で口を塞がれてしまった。

 抵抗するアカリに構わずに、男は彼女を車の中に引きずり込んでしまった。時間にして五秒程であろう。

 人を拐うのに手慣れている連中のようだ。一方、ディミトリはいきなりの事で動けないでいた。


「そっち?」


 ディミトリは思わず声が出てしまった。相手の目的がてっきり自分だと思い込んでいたのだ。

 だが、彼らの目的はアカリの方だった。


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