第3話

イギリスの郊外。誰かを探している夫婦がいる。


「ヒカルー!ヒカルー!」

「どこにいったのかしら…あの子。」


「どうして、目を離したりしたんだ。全く…」

「しかたないでしょ!人混みに飲まれてしまったんだから。」

「とにかく、早く見つけよう。日本行きの飛行機に間に合わないぞ。」

「えぇ、ヒカルー!ヒカルー!」





「ここは、どこ?お母さん?お父さん?」


私は今、旅行に来ている。お父さんの仕事の都合で、ずっと住んでいたの街を離れなければならなくなり、最後にイギリスの行った事のない場所に行ってみるということになった。

今日は、最終日で、これから飛行機に乗るはずだった。

どうやら、はぐれてしまったみたいだ。


(あれ?おかしいな…方向音痴ではないはずなんだけど…)


と、思いながらも空港とは真逆に進んでいく。


あちこち、歩いていたら、いつの間にか路地裏に来てしまった。


ゴミが散乱しており、人気のない暗く狭い空間だ。


私は、怖くなり。来た道を戻ろうとした。


振り向くと、大柄な男が2人行く先を阻んでいる。


「ねぇ、お嬢ちゃん。こんなところで何してるの?」


にやつきながら、1人の男が言うと、それに続いて、もう1人が、


「お父さんとお母さんはどこかな?」


と、こちらもにやつきながら言ってくる。


私は、今居る状況がとても危険だと分かると足がすくみ、身体からだが動かなくなってしまった。


「そんなに固くならなくてもいいよ。悪いようにはしないから、お兄さん達とこっちで遊ぼうよ。」


そんな事を言いながら、私の方に向かって手を伸ばしてくる。


私は、怖くて声が出なくなった。


すると、もう一人の男が、


「へぇー。随分とおとなしいじゃねぇか。まぁ、いい。こっちの方が楽だし、このまま運んじまうか。」


「おう。」


男達は、私の腕を掴み、強引に引っ張った。


「いやだ!誰か。助けてー!」

腕を引っ張られた拍子に声が出た。

私が叫ぶと、男達は、


「おいおい。嬢ちゃんもうちょっと静かにしとこうね。」


と、言い。私の口に大きな手を押し当てた。


口をふさがれたまま、路地裏の奥の方に引っ張られていく。


(誰か。助けて)

完全に口をふさがれ、声も出ず、体格的にも力的にも負けている私は、あらがうことができず、心の中で、助けを求めた。



ドスッ!

「がはっ!」


突然、鈍い音と共に男が私の前に倒れた。


次の瞬間、私は、捕まれていた手が離れ、自由になる。


振り返ると、フードを深くかぶった女の人が立っていた。


「誰だてめぇ?」


もう一人の男が、私から離れフードの女に近づいていく。


「……」


フードの女は何も答えず、黙って近づいてくる男を見ていた。


「黙りこくってないで答えやがれ!!」


男がフードの女に殴りかかろうとした。


「危ない!」


次の瞬間。殴りかかったはずの男は、宙を舞い地面に叩きつけられていた。


「もう、大丈夫。」

そう言いながら、近づいてくる女の人は、私よりもずっと背が高かった。


「怪我はない?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」


心配して掛けてくれた声は、普通の女性よりも低く、聴き心地が良かった。


私は、フードの中をのぞき込んだ。


顔は暗くてよく見えなかったが、目だけはよく見え、


左はこい紫色、右は薄い茶色の特徴的な瞳をしていた。


(凄く綺麗な目。)


私は、彼女の瞳に吸い込まれそうになり見とれてしまった。


「ヒカルー!ヒカルー!」


路地裏の出口からお父さんの声が聞こえる。


「あっ、お父さん。」


私がそうつぶやくと、彼女は


「じゃぁ、気をつけてね。」


と、言い、私の横を通り過ぎ路地裏の奥に消えていってしまった。



「ヒカル!やっと見つけた。どこに行っていたんだ。まったく…。怪我は?怪我はしていないか?」


お父さんは、必死に私の安否をしてくる。

しかし、私は、さっきの女の人のことで頭がいっぱいだった。


「…うん…」


「ほら、空港で、母さんも待ってる。」

 

(また、会えるかな?)







人気のない家の屋根の上に立つ人影


「遅かったな。つき。」


「すいません。お父様…」


「構わないよ。何かあったのか?」


「はい。来る途中、路地裏で少女が襲われていたので…」


「なるほどな。だが、あまり深入りするなよ…我々はアサシン…影ながら生きる人間だ。」


「分かっています。」

私は、フードをとり、お父様に向き直る。


「それと、その目も、向こうでは隠したほうがいいだろう。」


「分かりました。」


「久しぶりだろう。6人集まるのは…」


「えぇ、皆各支部にとばされていましたからね。」


「今、日本で、奴らの動きが活発になっている。そのためにお前達を集めたのだ。そっちは、任せたぞ。」


「はい。」

お父様は、少し黙り考え込んだ。


「もう、出発か…」

「はい。」

「母さんのことも、よろしくな。」


「大丈夫です。心配されるようなことはさせませんよ。」


「成長したな。」


お父様は私の頭に手を置いてそういった。

私は、少し照れくさくなった。


「もう、行きます。」


「そうか、日本支部の皆によろしく。」


「はい。お父様もお元気で…」

私は、そう言うと、フードをもう一度深くかぶり直し、屋根の上から飛び降りた。



私は、空港の近くの路地に降りるとフードを脱ぎ、空港内に入った。

空港の中に入ると、大きなカバンをもった女性が立っていた。

私は、その女性に近づく。

「遅くなって、ごめん。」


「お疲れ、大丈夫よ。どうだった?久しぶりに父さんと走った気分は?」


「うん。やっぱりいいね。任務がないときに走るのは。」


「よかった。」


「母さんのこと気にしてたよ。」


「あら、私はいいのに、昨日久しぶりにご飯に行けたから。」


~間もなく、日本行きの便のご案内を始めます~


「そろそろね。つき、行こうか。」


「はい。」


私は、母さんと荷物の検査上に向かった。



「ほら、ヒカル急いで。」

「まって、お母さん。速いよ。」

「ほら、その荷物持ってやるから。」

「ありがとう。お父さん。」


歩き出した私達の横を慌ただしく通り過ぎていく家族がいた。



私、あの路地裏からずっと走っているような気がする。

(あの人、今どこで、何をしているのかな…)


路地裏で助けてくれた女の人の事が頭から離れない。

飛行機に乗り込み、席に座った。


「ふぅ~。間に合った。」


「ギリギリだった…」


「日本楽しみね。」


お母さん達も席に座り、私に話しかけてくる。


「うん。私、いろんな所行ってみたいなぁ。」


「いろいろ回れると思うわよ。」


「休みが出来たら、ヒカルの生きたいところに行こう。」


「やった!楽しみ。」


ヒカルの家族はとても明るく元気だ。



その後ろ、やっと席に着いた私は、やけに賑やかな家族だな。

と、前の家族を見て思っていた。


「久しぶりの再会になるわね。皆。」


母さんも席に着き、私に話しかけてくる。


「そうだね。もう、4年も前か。」


「あっ、そうそう。皆、同じ学校に入るらしいわよ。」


「えっ、それ大丈夫なの?」


「まぁ、クラスは違うと思うから大丈夫なんじゃない?」


「そうか。賑やかになるね。」


「うん。楽しみね。」


「楽しみ。」


めぐちゃんや絢斗けんとくんも会いたがってると思うよ?」


「そうだね。2ヶ月イギリスにいたからね~。」


~間もなく、離陸致します~


離陸を知らせるアナウンスと共に動き始めた飛行機は、日本へと飛び立った。



彼女たちは、アサシン。


影ながら生きる存在。




「暗殺者」である。








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