お節介の理由

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 幼女が完全に目を覚ましたのは、それから3日も経ってからだった。

 母家に幼女を連れ込むと急いで濡れた布を剥ぎ、家に残った数枚の乾いた布をやり繰りしてなんとか身体から水を拭き取った。その時、長い髪の毛は拭いきれなかったので、悪いと思ったが肩の高さまでばっさりと切らせてもらった。

 その後は寒くないようにとベッドに新しい藁を敷き詰め直し、厚手の布団を引っ張り出してきてそこに寝かせたのだ。ちなみに熊には雨が止むまでの間、鶏と牛を食べない事を条件に家畜小屋にいてもらう事にした。

 幼女の冷たかった体はみるみる体温を元に戻していった。しかし、その後昨日の夜まで熱が全く下がらなかった。大量の汗を掻き、口からは声ともならない苦しそうな呼吸の音がずっと聞こえてきていた。

 だがその時、幸いにも数時間に何回か薄らと目を覚ましてくれたので、その合間合間に食事を与えることができた。幼女がいつ目覚めても良いように麦米で作った粥を作り置きし、食べさせる時に少しだけ温めて与えたのだった。

 最初は熱が上がりっぱなしで、作った粥も2〜3口しか食べてくれなかったため、もしかしたら治らないのではないかと取り乱したりもした。

 ーーーだが、もう何の心配もなさそうである。

 昨夜、それまでずっと徹夜で看病していたおいらは幼女の熱が下がった事に安堵して、彼女が眠るベッドの傍で寝てしまったのだった。

 そして、おいらがとある異変を感じて重たい目蓋を開けると、ベッドから起き上がりそこで胡座をかいて座っている幼女を目にした。

 その姿に叫びそうになりながらも幼女の表情を確認すると、今までりんごのように赤くなっていたの頰は元の色を取り戻しており、辛そうだった表情はどこにもなかった。

 彼女の様子を診て安心しするとおいらは、なぜかじ〜んとした痛みを感じる鼻を摩りながら、なんとも言えないため息を漏らしたのだった。

 反射的に幼女の頭をわしわしと撫でてやる。

 するとベッドに座っているために同じ目線の高さになっていた幼女が、おいらの鼻を摘んできたのである。


「ぐおぁっ!??」

「くふふふ、きゃははははっ」


 咄嗟の事においらは変な声を上げてしまった。幼女の頭から手を離し、鼻を摩りながら恨めしそうに見やる。どうやら、鼻が妙に痛かったのは寝ている間に彼女が摘んだせいだったようだ。

 そんなおいらの様子を見てか、幼女は笑い出した。

(……ああ、そうだった)



 ーーーおいらはこの笑顔が見たかったのだ。




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