第4話『子犬と花火』

 夕空が光ってドドンッ!

 僕は夢中で逃げた。気付いたら滑り台の下。

 いつもユミちゃんと来る海辺の公園が今は知らない場所みたい。


「迷子?」


 振り向くと、赤や緑の淡い光が白猫のお姉さんを照らしていた。


「野良犬じゃなさそうね」


 また何かが空を叩いた。僕は耳を伏せた。


「これ何の音?」

「打ち上げ花火よ。おいで、怖くないから」


 お姉さんは長い尻尾で僕を抱き寄せた。



「僕、ユミちゃんを置いてきちゃった」

「花火に驚いたせいね」

「そうみたい」

「車にひかれなくて良かったわ。去年のうちの子みたいに」


 寂しそうに笑って、お姉さんは僕を抱く尻尾に力を込めた。

 一緒に空を見上げた。眩しい光の花が咲いては散っていく。


 シロ、シロと僕を呼ぶ声。ユミちゃんだ。


「行かなきゃ」

「車に気を付けてね」

「うん。さよなら、お姉さん」

「さようなら。……ありがとう」


 また大きな花火が上がった。

 でもなぜだろう、もう怖くない。

 お姉さんに笑いかけて、僕は駆け出した。

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