第5話『鏡』

 朝の儀式を始めよう、と鏡の中の俺が語りかけてくる。

『そろそろ聞き飽きたかもしれないが、君の顔は十人並みだ』

「悪かったな」

『見ようによっては深海魚だ』

「おい!」

『だが悲観するな。人間は顔じゃない』

「見た目が九割とも言うけどな」

『その見た目に顔の造作ぞうさくめる割合は君が思うほど高くない』

「だけど俺は……、背は低いし足も短い」

『胸を張って堂々と歩けばそれでいいさ』

「服のセンスにも自信がない」

『肝心なのは清潔感だろう。その点、君はさわやかだ』

「爽やか? 本当に?」

『本当さ。君は頼れる好青年!』

「俺は頼れる好青年」

『小粋な個性派快男児!』

「ギラつく個性の快男児!」

『水もしたたるナイスガイ!』

ほがらか、骨太、ナイスガイ!」

『その調子だ。さあ今日も元気に行こう!』

「よおし、俺に任せとけ!」

 こんなルーティーンを始めてからというもの、俺の営業成績はウナギ登りだ。

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