第3話『パンとゆりかご』

 おはよう。よく眠れたみたいだね。

 みんな白い肌が瑞々しい。ふわふわ優しくてとても綺麗だ。

 親バカと笑われそうだけれど、私はいつも心からそう思うんだ。


 さあこっちへおいで。熱いから気を付けて。

 そうとも。オーブンの中で、君たちはきっとすっかり変わってしまう。

 発酵器のゆりかごで夢を見ていた頃とは似ても似つかない姿に。

 でも大丈夫。信じて我慢おし。

 辛い時期を乗り越えたとき、君たちは必ずもっと素敵になれるんだから。


 私には今から見えるようだ。

 バターに蜂蜜、マーマレード。

 初めてお化粧した君たちが、どこかで誰かをふわふわ優しい笑顔にしている、そんな幸せな朝の光景が。


 そろそろ時間だね。怖がらずに出ておいで。

 さあ、どうだ! 何て美しいんだ! 

 ふっくらこんがり香ばしい、どこへ出しても恥ずかしくない自慢の娘たち。

 寂しいけれど行ってらっしゃい。胸を張って。綺麗だ。君たちはとても綺麗だ。


「天然酵母の食パン焼き上がりました!」

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