第4話 チキチキ父親の新社会人時代!社員寮は怖いよ編

 というわけで、サブタイトル通りの内容になります。

 新社会人になってそれなりに仕事覚え出したのも束の間、ミスばかりでセールスや詐欺会社からの電話ばかりかかってくる&迷惑電話とわかった上でそれを取りたがらない先輩たちの代わりに電話を取らざるを得ないストレスMAXしんどすぎMAXであろうみんな〜!それとも来年あたりにその辛苦を味わうことになるかもしれん学生諸君〜!!

 地元から離れた職場につく場合、社員寮で生活をする可能性もあることだろう。実家とは異なる新生活。知らぬ土地にはやはり忌み地なるものが憑き物、いえ付きものでして。

 そんなこんなで、小野不由美の『残穢』レベルまではいかないにしろ、新社会人時代の父親が実際に体験したほんのり怖かったお話を書いていこうかと思う。

 寮住みの読者には一人でトイレや風呂に入るのが少し怖くなるお呪いをかけて差し上げよう。あと夜中のカーテン越しの窓も見れなくなるかもしれない。




①同居人が霊媒体質だった編


 高卒で東北の片田舎から東京の某有名自動車会社に入社した父親は、社員寮で生活することになった。ちなみに現在は脱サラして狩りぐらしのオヤジッティになっている。若かりし頃の写真に写るYAMAHAのバイクにキメキメで跨がる東山紀之似の爽やかイケメンは今や、犬猫が好きな熊が苦手のオフロードバイクをいじるのが趣味なナタ包丁を持ったスキンヘッドのガチムチ強面のオオビトだ。

 寮といえば一人部屋が多いかもしれないが、華のバブル時代は現在よりも就職のため上京した若人が多く、部屋にはやはり限りがあった。その時、相部屋になった同期の男性もまた、霊感持ちだったのだ。


「だいたいの霊感持ちはだいたい霊感持ちに引かれ合う」


 スタンド使いのようなものだ、と同期は父によく話していた。

 しかし、この同期。なんと、これまた父と相性が悪かった。

 性格や人間性ではない。なぜなら、彼は厄介なことに「霊媒体質」だったのだ。


 一般的に霊媒体質というと女性を連想するだろう。その概念として、女性は体内に生命を宿す「器」が存在するためという話がある。直球に言えば、子宮だ。

 神社の巫女など、神事に携わる女性に処女性を求められるのも、これが有力だと自分は考える。


 ……では父の元同期は?


 彼、と指す通り同期は男性だ。では、どうして霊媒体質だったのか。

 その理由の一つとして、彼の生まれが神社の神職だったからというのもあったようだ。神に仕えるお家に生まれたのだから、そういうこともあり得るのだそうな。

 霊媒体質の人間が、強い霊感持ちの人間と生活するとどうなるか。勿論、そりゃ悪化するに決まっていた。

 霊に敏感な二人を面白がってやって来る、実体無きあちら側の訪問者たち。夜な夜な怪奇現象のオンパレード。同期は、すぐ取り憑かれ吐き気に嘔吐に不眠症。発作でうずくまる同期に、父が塩で擦り込み揉むように背中をさすって落ち着かせる日々は、あまりいい思い出では無かったそうな。

 確かに1日数回、白目剥いて涙と鼻水が垂れ流しの青年……一見して狂人の介護は正直にしんどそうだ。しかも家族じゃなくて他人なのだ。温厚な父もさすがに限界だった。

 あまりにも酷かったために希望届を会社へ出した後に部屋替えをしたが、同期が取り憑かれる頻度が減っただけで父への効果はあまり変わらなかったそうな。




②律儀にノックをするなアホ間抜け編


 ある夜、ベッドで就寝中の父は物音で目を覚ました。

 コンコン、コンコン。

 目をふと遣ると、その音はベッドのすぐそばの窓から――ノックの音だということが解った。

 父はそれがすぐさま心霊関連だと直感で悟る。しかし疲労から、睡眠を妨害する犯人に苛立ちを募らせた父親は何を思ったのか窓のカーテンを勢いよく開けた。


 そこにいたのは、逆さまに窓に張り付いて父を覗く異形の大女。グロテスクでおぞましい顔は、お世辞にも美人とは言えなかったそうだ。

 ノックだと思ったのは、女が額で窓をコンコンと打ち付けていた音。

 すぐ気を失った父は、爆睡したことによってその後の記憶は吹っ飛んでしまって覚えていないらしい。



③ウンコ中の人をからかうのは人外であってもやめようね迷惑だよ編


 新社会人時代で、父親が一番怖かったという話。

 ある時、急な腹痛に父は会社の個室トイレへ駆け込んだ。多忙によりなかなか大きい方をする時間がなかったからだ。

 踏ん張ってからしばらくすると、トイレ内を大きな地震が襲う。揺れが始まって少しの間、父は個室の両壁に手で抑えて体を固定することで耐えていたそうだ。

 しかし、だんだん焦る父に、今度は個室のドアをドンドンと連打する音。これだけ大きな地震なのだ。個室に入っている自分を心配して誰かが駆けつけてきてくれたのだろう。そう思った父親はドアを叩く誰かに自らの無事を伝えたものの、ノックは止まらない。それどころか、体当たりに近い衝撃へと変わっていく。

 当時の個室トイレはアルミ製のため、とても柔らかい。気に食わない相手をビビらせようと少しの力で殴るだけでも、簡単に拳の跡がつく程に。

 トイレの扉は施錠しているため未だ固く閉ざされているが、体当たりマンのせいで、すでに表面がボコボコに盛り上がりつつある。

 そして残されている深刻な問題は、父はまだ大きな方を出し切っていないこと。

 ……まさに前門のドア叩き、肛門の便意だったわけだ。

 ついにブチ切れた父親は、嫌がらせをする相手に向かって、怒声をもって勢いよく扉を開け放った。

 ――瞬間。あれだけ揺れていた地震はピタリと止み、激しくドア連打マンは影も形も見当たらず。

 この時、男性トイレにいたのはノーパンのまま扉を全開にした父親だけだった。


 静寂に包まれた空間に、ただ、不気味な空気が肌にまとわりつく。

 これが心霊現象だとやっと気づいた父親は全速力で部署へと走り、今さきほど起こったことを同僚たちに確認する。

 しかし彼らから告げられたのは、皆様も予想通りの結末。

 立つのもやっとの大地震に遭ったのは、父のみであったということだった。

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