第3話 意外と神話は我々の側に(後編)

 「STELLA」の執筆を優先してきた関係で長らく更新が途絶えていたので、ここでそろそろ再開としておこう。


 前回は廃墟編だったが、今回はそれに若干繋がってる父親が体験したお話についてだ。

 ここで注意事項がある。なぜなら、これはノンフィクションであると同時にショッキングな出来事に触れるからだ。

 そういうわけで、詳細はぼかして書いていく。

 ……倫理的にも触れていた場合は、当然削除するつもりだ。


 あまり詳しく書くと身バレの恐れがあるためざっと書くぞ。


 勿体ぶらずに言えば、父親は遺体の第一発見者となってしまった。その経緯が何とも不可解であり、神秘、または心霊現象染みたものだった。


 あれは数年前の12月後半。雪深い山奥の田舎で父親が勤務中だった時のことだ。

 雪に埋もれた田んぼ、その農道を歩いていた父親。側溝も雪に隠れており、落ちぬよう細心の注意を払って先を進んでいた父は、ふと鈴の音を耳にする。そして、突如として激しい頭痛に襲われた。

 しゃん、しゃんと鈴の音は父のすぐ頭上で鳴り響き、すぐさま全身の肌が粟立った。

 尋常ではないと身の危険を察知した父はその場から離れようと後退る。

 しかし、この異常なる事態から逃れたい父の意思とは逆に、鈴の音は大きく荒ぶり、けたたましく鼓膜を叩く。

“―――退くな。いいから前へ進め。”

 そう言わんばかりに狂う鈴音と、ガンガンこめかみを襲う激痛に脅された父親は、恐怖を懐きながら渋々、道のない道を進むことにした。


 ……一歩。一歩、また、一歩。


 足を前へ前へ踏み出す度に、鈴音はおとなしく、そして頭痛は嘘のように引いていく。

 しばらく進むと、あんなにうるさかった鈴音と激しかった頭痛が止んだ。

 ……その時、父親はある違和感に気づく。

 雲ひとつない冬の澄んだ青空。そして、山囲う広がる雪の田園。

 向かって農道の右側に、寄せられた雪の塊―――その小山から、何かが突き出していた。

 父親はマサイ族にも引けを取らぬアホ……失礼、超視力を持っている。四メートル離れた電柱の小さな広告文字の電話番号すら余裕で読める。その代わり老眼が深刻なのだが。


 ―――父の視界に入ったもの。

 それは、逆さまに突き出た裸足だった。


 太ももから膝、そしてつま先までの一糸まとわぬ「脚」そのもの。よく見ると、くの字に曲がっている。

 田舎なのでまあ、マネキンを使った案山子が多い地域でもある。そのため、父は「案山子が吹雪で飛ばされたのか?」とも思った。

 しかし、そんな疑問も近寄った時にはすでに遅く。

 ……残念ながら、父が見つけたのは人間の脚、本物だったのだ。

 半泣きで通報した父は、遺体の第一発見者になってしまった。

 被害者とその遺族に配慮して、その後の事件に関してはここでは一切記さない。


 お待たせしました。ここから先が、前回の話に繋がります。


 父はその日から心的外傷後ストレス障害に苦しんだ。夜な夜な、被害者が枕元に立つというのだ。

 だが、それはハッキリ幽霊ではないという。幽霊と幻覚、その区別がちゃんとつくというのがまた不思議だ。

 不眠の日々が続き、病院へ行ったほうがいいと奨める家族の意見も拒んで(病院嫌いだったため)正月を迎えた。

 気分転換に、と初詣に家族で毎年立ち寄る神社へ向かった。

 その神社は盗難防止を理由に、いつも戸を閉めている。賽銭を投入する際には、戸の障子に空いた穴から入れなければならない。

 その穴から、よく神社の中の様子を覗いて伺ったりしたことがあったが、御神体は神棚の中に仕舞われて一度も見たことがなかった。


 あの、初詣の日までは。


 偶然というものがあるのだろうか。それとも、必然だったのだろうか。

 あの日、あの初詣の日だけ、なぜか戸が全開だった。初めてこの目で拝んだ御神体は、とても綺麗な、柄のない剣であった。

 父と自分は、初めて目にした御神体にはしゃいだ。そして、その晩から父の枕元に立つ被害者の幻覚は現れることがなくなった。


 しばらくして、ふと興味を持った自分と父は神社の祭神を調べることにした。

 恥ずかしながら、筆者が幼い頃から参っているというのに二人とも仏教密教が趣味なせいで無知だったからだ。


 前回、そしてここまで読んでくださった方々はもうすでに察しがついているだろう。


 その祭神を目にした時の、父の顔が忘れられない。自分も、やけに興奮したのを覚えている。


  






 ―――祭神、武御雷之尊。




 …………はい。どうもありがとうございました〜!!!!!!!

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