なんてものを連れてきてくれるんです……

 


「みんな、その盗賊を見つけて捕縛しろっ。

 決して、その男が未悠の前に現れることのないようにっ」


 そうアドルフが宣言して、数分も経たないうちに、その男は未悠たちの前に現れていた。


「ラドミール……」


 なんてものを連れてきてくれるんです、と未悠はうなだれ、


 堂端は、まずい、仕事に行かずにこんなところでくつろぎ切ったり、ショーグンか参謀になりたいなんて戯言ざれごとを言っている場所に社長がっ、と慌てる。


 だが、ラドミールはそんな騒ぎの元を連れてきてしまったことなど気にする様子もなく、

「アドルフ様、お忘れの櫛です」

と本来の主人の前にひざまずくと、うやうやしくアドルフに櫛を差し出していた。


 だが、みんな、思っていた。


 いや、櫛、どうでもいいよ。

 その後ろのやつはなんなんだよ……と。


「肉、焼けましたよー」

と未悠たちに遅れて野盗たちが宿の中に入ってきた。


 イラークがなにもかも奪われたマヌケな野盗を哀れに思い、ご馳走してくれることになったので、ずっと外で肉をぐるぐるしてくれていたのだ。


 野盗たちは駿を見て、あっ、と言う。


「こいつだっ」

「そうだ、こいつだっ」

と口々に叫び出す。


「そうだ、こいつだっ。

 俺たちから金を奪ったのは、王子じゃないっ。


 この、なんだかわからないが、強引な手段でのし上がってきそうなやつだったっ」


「そうだ、こいつだっ。

 この、知らない場所に迷い込んでも、なんのためらいもなく、場に馴染んで暮らした挙句に、王様とかになりそうな奴だっ」


 アドルフ様に対する評価と全然違うな……。


「そうだ、こいつだっ。

 この、いい男で、やり手なのに、何故か、気に入った女は、ちょっと駄目な感じの男に持ってかれそうな奴だっ。


 女は母性本能をくすぐられると弱いらしいから、お前も、ちょっと弱いところでも見せてみた方がいいんじゃないのかっ?」


 アドバイスまで加わったぞ、と思いながら、未悠は訊いてみた。


「社長、なんでこの人たちの食べ物とありったけの財産奪っちゃったんですか?」


「腹が減っていたから。

 そして、金を持っていないと不安になるから」


 明確な理由だな……。


 しかし、全財産奪われたこの人たちの方が不安になったと思いますが、と思う未悠に、駿は更に言ってきた。


「通りすがりの爺さんとかから奪い取ったら悪だろうが。

 こいつらから取るのなら、悪ではない。

 正義だ」


 いや、正義ではない。


「だって、どうせ、こいつら、また何処かから、簡単に金奪ってくるんだろ」


 いや、きっと簡単ではない。


 というか、恐らく、社長がこの人たちから奪ったときほど簡単ではない。


 その証拠に、野盗の人たちは、今、ものすごく不安そうに駿を見ている。


 またなにを奪われるんだろう、という感じだ。


 だが、細かいことは気にしない駿の中では、既にその話題は終わったようで、戸口の方を振り返り、

「しかし、馬は速いな。あっという間に、街道を駆け抜ける」

と呟いている。


「社長も馬、ギフトカタログで乗ってみたんですか」

とうっかり訊いて、


「ギフトカタログ?」

と訊き返されてしまったが。


 未悠の横で、堂端が、莫迦か、という顔をしていた。


 だが、駿は、

「馬になど乗ったことはない。

 だが……乗ってみたら、乗ったことがある気がしたな」

と言い出した。


「馬の方が車動かすより、楽な気がした。

 車と違って、勝手にこっちの考えを読んで動いてくれたりするしな」


 それを聞いたラドミールが、

「馬は賢いですからね。

 乗った人の考えを読んで動くんですよ」

と言ってくる。


 ……此処には空気の読めない人間がたくさん居るのに、馬の方がずいぶん賢いな、

と未悠が思ったとき、社長がテーブルに並ぶ料理と料理を手にしたイラークを見て言った。


「なにか食わせてくれ。金はあまりないが、宝石類ならある」


「俺たちの全財産ーっ」

と野盗たちが駿の手にある革袋を見て叫んでいた。





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