おかしいと思っておったのだ

 

「私もおかしいと思っておったのだ」

とタモンが言い出した。


 あのあと、エリザベートが居るのとは別の、こじんまりとしたサロンにみんなで集まっていた。


「此処のところ、エリザベートは挙動が不審だ。

 この間も黙って私を見ていた」

と言うタモンにラドミールが、


「愛が再燃したんじゃないですか?」

と言っている。


 いや……、エリザベート様は最近、なんかもう完全に若造を見る目で、小馬鹿にしたようにタモン様を見てますが、と思いながら、未悠はその言葉を聞いていた。


「しかし、愛、というのは、なにかこう、しっくり来ますな」

とおのれのごつい顎を撫でながら、バスラーが言ってくる。


「エリザベート様は、最近、若々しくなられたというか。

 ちょっと色っぽくなられたような気がします」


「色っぽいっ!?」

とまったくそのようには感じていなかったらしいタモンとシリオが訊き返している。


「まあ、バスラー様っ。

 そのような目でエリザベート様を見てらっしゃいましたのっ?」

と一応、バスラーの婚約者であるシーラが憤慨して言い出した。


 ……気に入らない婚約者でも、他の女を見ていると腹が立つようだ、と思いながら、未悠は思う。


 いや、気に入らないからこそ、余計に、かもしれないが。


 この私が結婚してやろうと言っているのに、どういうことだとプライドの高いシーラは思っているのに違いない。


 しかし、考えてみれば、エリザベート様とバスラー公爵の方が年が近いしな、と思う未悠の前で、このまま黙ってたのでは、腹の虫がおさまらない、というようにシーラが言い出した。


「お父様が、あのくらい年の離れた男の方が、若くて美しいお前に嫁に来てもらったというので、下にも置かない扱いをしてくれるに違いないというから、まあ、嫁にいってもいいかなと思い始めたところでしたのに」


 いや、あけすけに言いすぎだろ、と未悠は思ったのだが、何故か、バスラーは感激し、

「本当ですかっ? シーラ様っ。

 本当に私と結婚してくださるのですかっ」

と言いながら、シーラをお姫様抱っこで抱き上げる。


「ちょっ、ちょっと離してっ」

と人前で抱き上げられ、シーラは真っ赤になっていた。


 バスラーは喜びすぎて、なにかのタガが外れたようだ。


 シーラを抱いたまま、鼻歌を歌いつつ、出て行ってしまう。


 今にも庭園にでも行って、愛を語り出しそうだ。


 それを見ていたラドミールが、横で、ぼそりと呟いた。


「嬉しいですかね? あれを嫁にもらって……」


 ラドミールはアデリナの従兄なので、シーラとは幼い頃は一緒に遊んだりもしていたらしい。


 だからこその実感こもった声だった。


「ま、まあ、とにかく、私、エリザベート様の様子をこっそり窺ってますよ。

 全員で見てると目立つんで」


 そうまとめるように言った未悠は、みんなに、いや、お前が、俺たちを引き込んだんだろ、という目で睨まれてしまった。





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