今にも親子の縁を切られそうだ……



 誰も二階に上がったりしないだろうな、と目を光らせながら、アドルフはリコたちとともに、床に敷かれた古いマットに横たわっていた。


 黴臭いのもホコリっぽいのも今は気にならない。


 何度も未悠の居る二階を見上げる。


 せっかく会えたのに、離ればなれとは……。


 壁に立てかけてあるリチャードの棍棒を見ながら、あれで天井に穴を開けたら、未悠が落ちてこないだろうかと、ユーリアに親子の縁を切りたい……と言い出されそうなくらい阿呆なことを考える。


 あんな立派な父上が居ながら、塔の悪魔に惹かれるなぞ、母上は莫迦なことをなすったものだと思っていたが。


 なんだか訳のわからないうちに、ものすごい力で心を持って行かれるのが恋というものなのだと、未悠に出会って初めて知った。


 気がつけば、リコが昔見た二胡にことかいう楽器に似たものを手にしていた。


 倉庫からマットとともに出て来たらしい。


 おいおい。

 この時間から弾くつもりか、と思ったのだが。


 楽器が奏でたのは、思ったより静かな音色で、それに合わせて、リコが不思議な古代語のような言語で歌い出す。


 聴いたこともないのに懐かしいような旋律。


 妙に耳に馴染むリコの歌声に、アドルフはいつの間にか、聴き入っていた。


 何処かの王室が、古代の言葉をなくさぬように、王族の間で、受け継がせていると聞いたが。


 リコは何者なのだろうな、と思いながら、目を閉じた。





 ベッドに横になっていた未悠は、おや? と思う。


 控えめに聞こえてくる楽器の音。


 それとともに、流れて来る歌声はリコのもののようだ。


 いつか聴いたラテン語の歌に似ている。


 そういえば、アドルフが塔の下で見つけたというラテン語のノート。


 あれはもしかしたら……と思っているうちに、眠りに落ちた。





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