ありがとうごさいますっ!


「ほほう。

 美味そうだな」

とスキンヘッドの棍棒男は、イラークの手にあったなんの肉だかわからないものと野菜っぽいものの炒め物を見ると、テーブルの上にあったフォークを手に取り、肉をさして、食べてみていた。


「うん、美味い」


 微妙に行儀がいいな……。


 なんとなく、こういうやからは手づかみで、わしっ、といきそうな気がしたのだが、と思いながら、未悠は棍棒男を見ていた。


「美味い料理に、いい女」

と言いながら、男は手近に居た未悠の肩を抱き、自分の方に抱き寄せる。


「いい場所だな。

 二、三日逗留してやるぜ。


 もちろん、金は払わんが」


 はははは、と男が笑ったとき、ヤンが立ち上がった。


「未悠様から手を離せっ」


「ほう。

 この娘、やはり、何処かのお姫様か。

 

 品があるな、と思ったんだ」


 ありません、そんなもの……、と思ったとき、男はヤンに棍棒を向け、言った。


「それに、お前、城の衛士だろう」


 えっ? とヤンが声を上げる。


「物腰と気迫がその辺の連中と違う」

と男に言われ、ヤンは、


「あっ、ありがとうごさいますっ」

と何故か、男に向かい、深々と頭をさげていた。


 座ったまま頬杖をついているリコが、

「喜ぶな……。

 見破られたんだぞ」

と呟いていたが。


「おい、そこの娘も来い」

と男は機嫌よく妹さんも自分の方に来るように言う。


「この女がどうなってもいいのか」

と男はさっきのフォークを未悠の顔に向かい、構えた。


 妹さんが青ざめて、こちらに来ようとする。


「来なくていいです」

と未悠は言った。


「ほう。

 お前ひとりで俺たちの相手をしてくれるというのか」

と男はいかつい手で未悠の顎を自分に向かって持ち上げる。


「わ、私、行きますっ」

と慌てて妹さんが叫んだ。


「大丈夫ですっ。

 えーと……妹さんっ!」


「ミカだ」

と横からイラークが落ち着いた声で言ってくる。


「ミカさん」

と言い換えると、棍棒男が、


「……知っとけよ、名前くらい」

と言ってきた。


 ヤン以外、誰も反抗して来ないので、男は此処に居る連中を完全に舐めていて、隙だらけだった。


 未悠は、さっと屈んで、男の腕から一瞬、逃れると、スカートの裾を手で跳ね上げ、腿に縛り付けていたあの短剣を取り出した。


「殺生は好みませんので」

と未悠は男の左胸の少し下辺りにその切っ先を押し付ける。


「これを刺したら、死んだように眠るらしいですよ」

と言ったのだが、後ろからリコが、


「いや、そこ心臓。

 刺したら、眠るより先に死ぬから」

と冷静に言ってきた。





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