実はちょっと気になっていることがあるので……

 

 実はちょっと気になっていることがある、と未悠は思っていた。


 アドルフと同じ顔の社長に対しては、なんだか時折、訳もわからず癇に障るときがあったのだが、アドルフにはそれがない。


 だから、もしかしたら――。


「今すぐ、出立しますっ」

と未悠はぎゅっと両手でアドルフの手をつかんだ。


 後ろのドアを気にしつつ、

「……王妃様に墓穴を掘られないうちに」

と呟いて。


 今にも扉の向こうに、大きなスコップを引きずったユーリアが、

「み~は~るは、ど~こ~だ~」

と言いながら、歩いて来そうな気がしていた。


「未悠。

 お前が行くなら、私も行くぞ」

と言うアドルフに、未悠は顔をしかめる。


「それ、言いそうだから嫌だったんですよ。


 王妃様と同じですよ。

 貴方がついて行って、王様が真実を話すと思いますか?」


 そのとき、誰かがドアをノックした。


「アドルフ」


 ひいっ。

 王妃様っ。


 スコップ持ってても厄介だし、やっぱり、私も行きます、とか言い出されても、また、厄介だ。


「抜け穴は何処ですかっ」

とアドルフを見上げて訊くと、


「何故、抜け穴があると思う?」

と訊き返される。


「王族の部屋にないわけないからです。

 いつ攻め入られるかもわからないのにっ」


 現に今、攻め入られようとしていますっ、という勢いで言うと、アドルフは観念したように、


「……暖炉の中だ」

と言ってきた。


「アドルフ」

とまた外から声がする。


 未悠は火のない暖炉の中に身体を滑り込ませながら、

「場所、変えた方がいいですよ。

 誰でもわかるから」

と言った。


 簡単に思いつきそうな場所だ。


 日本家屋に例えるなら、掛け軸の裏だな、と思いながら、行こうとして、

「あ、そうそう」

と上半身を再び、外に出した。


「私、とりあえず、悪魔の塔で待ってますから、ヤンかシリオかタモン様を寄越してください」


 それではっ、と言い、簡単に動いた暖炉の奥の壁を回転させ、未悠は中へと入っていった。






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