……おっさんの発想ですね
なんだかシーラに毒気を抜かれてしまい、そのまま、二人でしゃべりながら、城に戻ってしまった。
先程まで秘書という立場だった未悠は、みなが自分とアドルフを見て頭を下げるのを不思議な気持ちで眺めていた。
「まあ、なんだな。
なんだかんだで、バスラーも若い嫁がもらえてよかったじゃないか」
と入ってすぐの玄関ホールのような場所を歩きながら、アドルフはめんどくさくなったのか、そんな風に話をまとめようとする。
「……おっさんの発想ですね」
と未悠は思わず、言っていた。
この世界に来た瞬間に、アドルフに、行き遅れ、と言われたことを思い出したのだ。
だが、アドルフは、
「バスラーのことを語っているのだから、おっさんの発想でいいだろうが。
俺がそうだとは言っていない」
と言い訳してきた。
ぽん、と未悠の肩を叩き、
「大丈夫だ。
お前は年をとっても面白い」
と言ってくるアドルフに、未悠は、待ってください、と思っていた。
貴方は、面白い、面白くないという判断基準で私と結婚しようとしていたのですか?
と思ったとき、
「未悠っ」
と声がした。
見ると、何故かシリオが目に涙を浮かべて階段を下りてくる。
……どうしました、と思ってしまった。
やけに感激している風なシリオとの間に温度差があったからだ。
未悠としては、ずっとそっくりな堂端の顔を見ていたので、久しぶりのような感じがしないのだ。
ホールに下りたシリオは、
「未悠っ。
よかった、帰ってきたのだな」
と言って抱きついてくる。
未悠は、
そうか。
王子の許に自分が私を連れてきたのに、いきなり消えられて、王子に対して、なにか責任を感じていたのだろうか、と思ったのだが。
どうも違ったようだった。
「シリオ、下がれ」
とアドルフはシリオの額に手をやり、押し戻そうとする。
だが、シリオは振り返り、
「王子と言えども、此処は譲れませんぞ」
と言って、
「お前が未悠を私にと連れてきたんだろうがっ」
とアドルフに切れられていた。
なんなんだ、一体……と未悠がそんなシリオの顔を眺めていると、
「タモンを呼べっ」
とシリオについて来ていたヤンにアドルフが命じている。
「これをなんとかしろとっ」
「……えーと。
なんとかなるんですかねえ」
とヤンが苦笑いしたとき、
「シリオ様、ちょうどよいところに」
という声が入り口の方でした。
見ると、アデリナと何処かで見たような恰幅のいい男が立っていた。
舞踏会で見たんだったろうか?
年齢的にいって、アデリナの父親かな。
いや、シーラの例もあるしな、と思いながら、眺めていたが。
やはり、アデリナの父だったらしく、
「シリオ様、うちのアデリナはいかがですか?」
と男は高らかに言い出した。
なんだろう。
テレショップでよく見るようなテンションの高さだ……。
「アデリナの学友のシーラ様もこのたび、お輿入れが決まったようでしてな。
王子妃様も決まりましたことですし。
アデリナもそろそろ輿入れさせようと思ったのですよ。
シリオ様、うちのアデリナはいかがですか?」
今なら、もう一人、アデリナがついてくる! くらいの勢いだ。
アデリナはなにも言わずに顔を背けている。
一方、シリオは、その顔に、だからそれで? 何故、私に? と書いていた。
「いやー、うちの娘はこう見えて、面食いでしてな。
家柄的にもシリオ様くらいでないと不満があるようなのですよ」
いや、娘さんは、シリオ様でも不満げなのですが、と未悠は素知らぬ顔をしているアデリナを見る。
「いや、しかし……」
と迫力に押され、小声で言い返そうとしていたシリオは、言葉を出し切る前に、アデリナの父にその言葉を押し戻されていた。
「まあまあ、年寄りがあまり口を挟んでもなんですから。
どうぞ、少し二人でお話でも。
シリオ様、結婚もいいものですぞ。
先程も外で、バスラー公爵にお会いしましたが、汗だくで楽しそうでしたぞ」
……公爵、まだ、外で追いかけっこしてるのか。
と一瞬、同情しそうになったが。
アドルフの言う通り、それはそれで楽しいのかもな、と思い直し、口は差し挟まなかった。
シリオのことにも――。
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