第10話 体育祭練習開始と迫る距離感
今日から体育祭に向けた練習が授業無しで行われる事になった。まさかの授業をしないで練習に臨む事になるとは思っていなかったけど、西園寺先輩曰くこれが藤城学園の風習に近いらしい。
「あ、せんぱーい(^▽^)/」
「桜沢君、おはよう!今日から体育祭練習だね。私達実行委員会は自分達の競技以外の時間は控室で仕事をしたりして待機だけど、ちゃんと水分補給はしっかりして熱中症予防してね?」
「わかっていますよ(^▽^)/」
桜沢君はいつも私の方を見ている気がする。そういえば一回桜沢君と如月君に怪しまれた事があったっけ。そうなると少し危険だな・・・。
「おや、こんな所で会うなんて奇遇だね。暑くないのかい?」
「鷹司先輩!?お、おはようございます。」
「おはよう。確か君は体育祭実行委員会委員長の佐々木結衣さんだよね?朝早くからいつもしっかり仕事をこなしているらしいけど、あまり無理したら駄目だよ?」
「無理はしていませんが、どうしても体育祭成功の為に自分に出来る事があったらやっておこうと思ってどうしても力が入ってしまうんですよね(^^;)」
「そういう所、君は偉いなって思うよ?(⌒∇⌒)」
「ありがとうございます!」
「じゃあ僕はこの後競技の練習があるから、これで失礼するよ。」
まさか朝から藤城四天王の一人の鷹司先輩に会えるなんて思わなかったけど、なんか今日は頑張れそうな気がする!
「ねえ、佐々木さん?真山先生が探してたけど何かあったの?」
「真山先生が?いや、別に何もないけど。教えてくれてありがとう!」
まさか、また何か大事な事を忘れてしまって怒られるとか?それとも体育祭実行委員会のメンバーで何か集まりがあるとか?
「真山先生、すみません。」
「ようやく来ましたか。佐々木さん、あなた大事な物を忘れていますが何だか分かりますか?」
「大事な物ですか?」
「ハチマキですよ。しかも自分のチーム全員分のハチマキを作る役目を忘れていたのですか?」
「・・・あー!すみません、忘れていました。」
「まったく、あなたという人は。では、今日の放課後に家庭科室で待ち合せましょう。」
「待ち合わせ・・・というと?」
「一人より二人という事です。」
「なるほど、わかりました!ではまた後程(^▽^)/」
正直この後の放課後に作業があるなんて思ってなかったから予想外だったけど、私なら出来るしそれに真山先生もいるから何てことないよね。そういえば次は私の大好きな競技のパン食い競争!よーし、頑張るぞ!
自分の列に並ぶとたまたま隣の男子列にいた如月君が話しかけてきた。
「なあ、あれ見てみろよ。審判の教師の中に真山がいる。」
「ほんとだ!意外と厳しい所あるから、反則とか出来なさそうだよね(;^ω^)」
「お前、実行委員会委員長なのに反則する気か?」
「そんな事ないよ。ただ、真山先生の事だから反則なんてしたら余裕で減点されそうで怖いよねって話。」
「まあなー。結構そういうところありそうだもんな(;^ω^)」
そんなこんなで話をしているとピストルの音が鳴って競技が始まった。私の出番は最後から2番目という責任重大的な場所にいるので、結構緊張するし転んだら最後だと思っている。・・・こういう時に一緒に茜がいれば応援出来たりしたのかもしれないな。
「佐々木さん、次だよ!!」
「え、うん!」
私はバトン代わりのタスキを受け取ると、パンの位置まで全力で走った。私は幼い頃から徒競走だけは自信があり、走る事に関しては余裕で得意分野だったので一気に差を付ける事が出来た。しかし、何度かジャンプして着地してを繰り返すうちにバランスを崩したのか足首をくじいてしまった。痛みが走ったがこんな事でチームに迷惑は掛けられないと思い、パンを咥えた後に無理して走ってアンカーに渡し終えた後に猛烈な痛みがあったのでさすがに若桜先生に診て貰う事にした。
保健室に行くと若桜先生は一人で仕事をしていた。
「若桜先生、少しいいですか?」
「おや、結衣ちゃん。練習中に何かあったの?」
「足首を挫いてしまったのかもしれなくて・・・。少し診て貰ってもいいですか?」
「すぐそこに椅子があるから、そこに座ってもらえるかな・・・?」
痛い足を引きずって何とか椅子に座れた。若桜先生はすぐに痛い方の足を見て、診断してくれた。
「うーん・・・この腫れ方と痛さからして捻挫ではないかも・・・ね?多分骨折かな?」
「骨折ですか!?」
「うん。そこまでは酷くないかもしれないけど、一応病院に今から行って診て貰った方が良いね。俺が付き添っても良いけど、結衣ちゃんはもちろん真山が居た方が安心かな?」
「そうですね。では少し連絡を・・・ってスマホが教室にあるので連絡ができないです(´;ω;`)」
「なら、俺が連絡してあげるよ?ちょっと待ってて。」
5分後、真山先生はすぐに保健室に迎えに来てくれた。そして事の詳細を若桜先生から聞いた後に、すぐに車を手配してくれた。
「結衣、俺に掴まれ。お姫様抱っこしてやる。」
「でも、私重い・・・きゃっ!」
真山先生は有無を言わさず私を軽々と持ち上げた。そして誰の目にも入れさせない様に、走って車まで向かってくれた。
真山先生の車に乗るのは何回目だろうか。ふかふかのシートに降ろされて私は何も言えないままうつむいていた。車を走らせながら真山先生は話しかけてきた。
「お前、まさかと思うがパン食い競争の時に挫いただろ?」
「そうです。」
「なぜ俺にすぐに言わなかった?若桜だったからまだ良かったが、他の奴らにでも知られて手当でもされたら俺の気が保ってられなかったぞ。」
「すみません。でも恭一郎さんは体育祭のお仕事だったので、一番暇そうな若桜先生に頼んだ方が一番良いかなと思ったんです。」
「それなら良い判断をしたな。褒めてやる。」
少し上からの良い方にも慣れてきた気がする。というよりも真山先生の上からの言い方が私は好きになっていた。
そんなこんなで病院に着くと真山先生は私をエスコートしてくれた。まるで私がお姫様の様に扱われている気がして、少し気分が良くなった。
「足にあまり負担をかけるのも良くないだろうから、今から車いすでも用意するが必要か?」
「車いすなんて私には必要ないですよ(^^;)それよりも早く受付をしないと、段々人が混んできますよ?私は先に近くのソファーに座っているので、恭一郎さんは受付に行ってきてください。」
「分かった。」
すると彼は5分程度で戻ってきた。そして私の隣に座ると軽く頭を撫でてくれた。
「今回は保険証がなかったから多少時間が掛かるらしい。でもその分お前と居れるから問題は無いがな。」
「もうっ!///でもその気持ちは私も一緒ですよ(⌒∇⌒)恭一郎さんとは普段はあまり関われないから、今こうして一緒に居られる時を大切にしていきたいなって思っています。」
彼はそれを聞いて少し固まった表情をしたが、すぐに口角を上げて優しく微笑んでくれた。
1時間後やっと診察の番が来て、私は真山先生に支えられて診察室に向かった。運が良かったのか診察の先生は女の先生で、それを見た時の真山先生の顔は安心した表情に見えた。もしも男の先生だったら一体どんな表情をするのかと考えたら、少し不安になったが今は診察に集中しようと思った。
「うーん、これは軽い骨折と診て良いでしょう。しばらくはあまり無理な行動や運動は控えた方が良さそうですね。レントゲン写真から見てもヒビがあるのでこれ以上動かしちゃうと大変ですので、今テーピングなどの準備をしますので少し待っていてくださいね(^▽^)/」
診察の先生が席を外している間、私の後ろから急に真山先生が抱擁してきた。きっと彼なりの心配からの優しさだろう。
「お前の事が心配だ・・・。せめて今この時間の間だけでも抱きしめさせてくれ。」
「///」
心臓の音が彼に聞こえてしまうのではないかというくらいに私の胸は高鳴っていた。今まで何回も抱きしめられてきたけれど、彼の愛情表現は私にしっかりと届いている。
こうして、私達は病院を後にした。結局私は松葉杖での生活を余儀なくされたので、これからの藤城学園での生活が困難になる。
帰りは真山先生が送ってくれるとの事なので、一旦学園に戻って荷物を先生が取りに行ってくれた後に家に帰ろうとしたが、どうも帰路が違う事に気づいた。
「恭一郎さん、帰路が違うんですけど・・・。」
「今日からしばらくは俺の家で生活した方が良いだろうと思って、先程職員室に向かってから俺が結衣のご両親に連絡しておいた。もちろん両親はご快諾してくれた。」
「それは嬉しいんですけど、明日からどうやって生活すればいいんですか?」
「安心しろ、俺がちゃんと考えたプランなら決して失敗するはずはない。」
そういうと、彼は優しく抱きしめて優しくキスしてくれた。私はこれからまた少しずつ彼との時間が紡げると思うと、心が嬉しくなってこれからの生活が楽しみになった。
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