第9話 戻れない学生生活
いきなり茜が来なくなってから私の生活は狂い始めた。真山先生とも今はお互いの立場上学園では距離を置いているし、隣の席に座っていた茜の席は無いしなんだか自分が自分じゃなくなるかの様に学園生活が動き始めた気がした。それでもどうにか朝のHRには間に合う事が出来た。
「おい、大丈夫か?」
「如月君おはよう。・・・ありがとう、大丈夫だよ。本当は茜が居ないから寂しい気もするけど、いちいちへこたれてなんかいられないもんね(^^;)」
「お前らしいな。取り敢えずこの後は真山の授業だから急いで支度しろよな。」
そういえば次は真山先生の授業だったっけ。宿題はやってあるから問題無いけどやっぱり真山先生と距離を置いている以上、この授業を受けるのが少し辛いかもしれない・・・。
「佐々木さん?どうかしたの?もしかしてまた調子が悪い?」
「一ノ瀬先生!?・・・いや、別に平気ですよ?少し考え事をしていただけなので。」
「なら良いけど・・・あ、そういえば今日から佐々木さんは日誌担当だから日誌渡しておくね。」
そう言うと一ノ瀬先生は忙しそうに職員室へ帰ってしまった。そっか、今日から日誌当番なのか・・・。いつもなら結構やる気が出るのに今日はダメな日なのかもしれないな。
1時間目の数学の授業で真山先生はいつものスタイルで登壇した。彼はいつも生徒一人一人を観察しているから、何に対しても厳しく接するけど最近は何処か疲れているようにも見える。
「佐々木さん、この問題は解けますか?」
「は、はい!」
この問題なら昨日少し予習したから、出来るはず。確かここの方程式を使って数式を当てはめれば・・・。
「ほう?正解です。少しは出来る様になったんですね。」
「ありがとうございます。」
すると彼は小さなメモ用紙を後ろの手から渡してきた。席についてから広げると、やはり呼び出しのメモだった。話があるなんて今度は一体なんだろう。私は取り敢えずお昼休みに誰もあまり来ない裏庭に行ってみる事にした。
少し遅れた気がして走っていくと「早かったな。」と声を掛けてきたのは、もちろん真山先生。それはそれで良いけど一体いつからここにいたんだろう?
「恭一郎さんが呼び出して来たんじゃないですか。ところでお話があると聞いたんですけど、何か学園内で問題でもあったのですか?」
「一ノ瀬先生から先程聞いたんだが、お前が上の空だったみたいだと。一体な何があったんだ?」
「心配してくれていたんですね。・・・実は茜の事と恭一郎さんの事で頭が一杯になってしまって。」
「佐藤さんの事で悩むのは分かるが、どうして俺の事で悩む必要性があるんだ?俺に何か不満でもあるのか?」
「不満ではなくて私たちの関係の事で今は少し距離を置いているという現状がありますが、何だか凄く寂しくなってきてしまっていつまでも恭一郎さんに距離を置かれて他の生徒と同等に扱われるのは嫌なんです。でも私だけ特別扱いしてほしいとかではなくて、こうしてまた沢山お呼び出しの回数を増やしてもらえたら距離を置かれても助かるかなって思ったんですけど、恭一郎さんはどう思うのかなと考えていたんです。」
「・・・ある意味それは不満だという事と変わりないではないか。寂しい思いをさせてしまっているならそれは申し訳ないなと思う。というより、いつも申し訳ないな。確かに教師という立場が俺にある限りお前だけを特別扱いするわけにはいかないし、だからといって同等にも扱えないというのが俺の心情だ。若桜と佐藤さんにも俺達の関係を知られている以上、あまり学園では一緒に居られる期間や時間は少なすぎると俺も考えていたんだがそこで提案がある。」
「提案ですか?」
「これを渡す。」
「鍵ですか?これって講師室の鍵とかだったりします?」
「合鍵・・・と言えば分かるか?俺の家の合鍵だ。これがあればいつでも俺に会いに来れるし、いつでも俺と幸せな時が過ごせる。しかしその鍵の存在を他の誰かにでも知られたら大変だからしっかりと鞄の中にしまっておくように。」
嬉しい!真山先生がここまでやってくれるなんて思っていなかったけど、これなら少しだけ頑張れる気がする。
「ありがとうございます!大切にしますね。」
「あと、お前がかなり動揺しているみたいだからな。」
そういうと彼は優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。意外な彼の一面と言ってもおかしくは無いだろうなと私も心の中でクスリと笑ってしまった。そんな光景を陰ながら見ていた人物がいるとも知らずに・・・。
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