第7話 少しの別れ

 なんだろう、いつにも増して何か胸騒ぎがする。真山先生に何かあったとか?でもその予感はすぐに当たってしまう。それは今朝のホームルームで、担任の一ノ瀬先生からの連絡事項の中に含まれていた。

「みんな、おはよう(^▽^)/今日はみんなにお知らせがあるんだけど、この後の1時間目の数学が自習になりました。理由としては、真山先生が長い期間出張に出掛けてしまう関係で1時間目の数学は僕が監視する事になったからよろしくね(^▽^)/」最悪だった。大好きな彼氏の真山先生に会えなくなるなんて、考えた事も無かったけど私には真山先生から貰ったブレスレットがあるからこれがあれば寂しくなんてないから。・・・と思っていたけどやっぱり無理だった。


 1時間目の数学の時間に私は一ノ瀬先生に保健室に行ってくると告げて若桜先生の所に向かった。

「失礼します。」

「おや、結衣ちゃん・・・。久しぶりだね?何かあったの?」

「少し寂しくて・・・。」

「寂しいって事は例の件かな?」

「まあ、そうですね。少し若桜先生に話を聞いてもらいたくて来たんですけど、今お忙しいですか?」

「比較的暇だから今は大丈夫だから話聞いてあげる。ちょっと待ってて?」

若桜先生は一回自分の席から立つと、授業をさぼりに来ている男子を追い払って鍵を閉めた。

「おまたせ。で、真山がどうかしたの?」

「出張に行ってしまうみたいで・・・。今1時間目の数学なんですけど代わりに一ノ瀬先生が私のクラスの自習を見ていてくれているのですが、真山先生が居ないと私は数学の授業でも寂しいんです・・・。」

「なるほどね。確か結衣ちゃんは真山と連絡先を交換しているんだよね?だったら、今連絡してみるのはどう・・・かな?」

「でもここって保健室だから、スマホ使っちゃいけないのではありませんか?」

「今は誰もベッド使ってないから、通話してもいいよ?」

「では、少し通話してきますね。」

私はすぐさま真山先生に連絡した。すると彼はすぐに応答してくれた。

『結衣か。どうした、こんな時間に。今この時間は、数学の自習の時間ではないのか?』

『真山先生、急に電話してすみません。少し真山先生とお話がしたかったので・・・。』

『・・・名前で呼ぶはずではないのか?』

『今はその様な環境ではないのです。実は今保健室に来ていて、若桜先生にお話を聞いてもらっている最中でして・・・。』

『おい、まさかと思うが若桜は俺達の関係を知っているのか?』

『すみません、知っています。というか、私が以前真山先生との事で御相談をした際に・・・。』

『そうか・・。まあ良い。それで、用件があって連絡したんだろ?』

『真山先生の事が恋しくなってしまって、声だけでも聞けたら良いなと思ってご連絡したんです。』

『ほう?俺の事が恋しい・・・か。まあ、直に帰るからいい子で待っていろ。ちゃんとお土産も買って来てやるから、それなら待てるか?』

『はい・・・。』

『良い子だ。じゃあ、俺もそろそろ仕事に戻らないといけないから切るぞ?・・・おっとその前に。最後に名前で呼んでくれるか?』

『恭一郎さん、愛してます。お仕事頑張ってください!」

『ありがとう、結衣。俺も愛している。』

その言葉を最後に通話が切れた。少しまだ寂しさが途切れなかったけど、今自分がどこにいるのかを考えたらふと我に返った時には、若桜先生がほのぼのとした微笑でこっちを見ていた。

「へぇー?真山も名前で呼ばせるんだね?」

「二人きりの時はそうしろと言われているので・・・。」

「それで、どう?少しは元気になれた?」

「正直まだです。けど、そろそろ教室に行かないと一ノ瀬先生が心配するので戻りますね。」

「そう?また困ったらいつでも来て?」

「ありがとうございます。」


 教室に戻ると一ノ瀬先生が不安な顔をして心配してくれた。

「佐々木さん大丈夫?まだ顔色が悪いみたいに思うけど・・・まだ保健室に居た方が良いんじゃないかな?」

「いえ、もう大丈夫です。それにこれ以上保健室に居ると、数学の授業についていけなくなりますから。」

「分かったよ。でもまた具合が悪くなったら遠慮しないで言ってね?」

自分の席に戻ると、私は急に今までの真山先生の数学の授業の風景を思い出していた。いつもなら私の所に来て何かと声を掛けてきては、軽く怒られたり注意されたりしていたけど今はそれが無い。なぜか心が寂しくなった。

「結衣、大丈夫?何か上の空だけど、悩みでもあるの?」

「茜、大丈夫だよ?ただ、少し異様な光景だなって思っただけだよ。」

「異様な光景?・・・もしかして数学の時間が今日だけ一ノ瀬先生だから、凄く緩い環境が異様って事かな?」

「まあ、そんな感じかな?」

「ねえ、結衣?この後お昼休み時間ある?」

「全然あるけど、どうかしたの?」

「少し相談したいことがあって。」

「分かった。」

いつも相談に乗ってくれる茜から相談を受けるなんて珍しいけど、まさかその内容が私の心を傷つける内容になるとは思わなかった。


 

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