第4話 1人1人

 「結衣、おはよ!・・・元気ないね、どうしたの?」

「茜、おはよ。ううん、何でもないよ(-_-;)」

「そう?何かあったら相談してね?」

「ありがとう。」

ごめんね、茜。いくら茜でも相談できない事なんだ。これは真山先生と秘密の事だから、誰にも言えない。でも若桜先生は真山先生との関係を知っているから、いざっていう時に相談できる。

「あ、そういえば今日から挨拶週間で校門前に先生達が日替わりで立つ日だよ!・・・あそこにいるのは真山先生!?やばい、ちゃんとあいさつしなきゃ!ほら、結衣行こう?」

「茜、先に行ってて?私、先に近くのコンビニで朝ごはん買いに行くから、少し遅くなるから(;^ω^)」

「わかった。じゃあ先に行くね?」

本当はこの近くにコンビニなんて無い。真山先生に会いたくなかったから、敢えて自己流の迂回ルートを探すだけなのだ。


 俺は一体何をしているんだろうか。結衣が佐藤茜と一緒に校門前に行かずに、どこか違う道へと行ってしまったのにも関わらず追いかけてやれない。そんな自分が嫌になってしまいそうな感情を抑えて、俺はもう少し挨拶週間の当番を終えないといけないのか・・・。

「あ、真山先生おはようございまーす!」

「おはようございます。おや、あなたは佐藤さんではありませんか。珍しく1人なんですね?」

「そうなんだよねー。結衣の様子がおかしくて、さっきまで一緒だったんだけど急にコンビニに行くから先に行ってて!って。真山先生、何か心当たり無い?」

「無いと言えば嘘になりますが・・・まあ、多分しっかり帰ってくると思いますよ。さて、そんな事より佐藤さんはもうそろそろ教室に行かないとまずいのではないですか?」

「あ!そうだね。じゃあね、真山先生( ´∀` )」

俺は速攻で挨拶週間の当番を終わらせて、職員室に一度戻った後1限の授業の数学を自習にする様に代わりの先生に頼んで藤城学園を一度出た。だが、そう簡単にか見つかるはずもなく俺は結衣が行きそうな場所を手当たり次第に探した。カフェにもいなければ近くの図書館にもいない。このままでは結衣の担任の一ノ瀬にも心配が掛かってしまう。俺は恐る恐る結衣に電話してみる事にした。

『結衣、今どこにいる?』

『・・・先生には関係ないでしょう?』

『関係あるから電話したんだ。もしかして、家にいるのか?』

『そうです。家にいた方が真山先生に会わなくても良いかなって思ったので、家に引き返しました。』

『俺が今すぐに迎えに行くから、大人しくそこで待っていろ。これは命令だ。』

そう言い残して俺はすぐに車に向かい、エンジンを掛けて車を発進させた。もしも俺が原因ならすぐに謝って、今すぐにでも校内に戻すか結衣が落ち着くまで優しく抱きしめるのが先決だ。


 私は茜に嘘をついて家に帰宅した。真山先生に会ってしまったら、色んな感情が湧き出てしまうだろうから。自室に閉じこもると鍵を閉めて一人で泣きじゃくった。すると真山先生から連絡が入って今すぐに迎えに行くから大人しく待っていろと言われて今は大人しく待っているところ。・・・本当は会いたくないのに何故か彼に会いたい。真山先生に会いたいと強く願ってしまう。早く来ないかな・・・。

『結衣、着いたぞ。今玄関前にいるから開けて欲しい。』

『わかりました、今行きますね。』

真山先生が本当に迎えに来てくれた!それだけでも嬉しいのに複雑な気持ち・・・でも今会わなかったら真山先生は怒ってしまうのではないかと不安になった。思い切ってドアを開けると、本当に真山先生が立っていた。

「遅いぞ。」

「真山先生・・・いきなりごめんなさ・・・!」

真山先生はいきなり玄関に入るなり、私を強く抱きしめてくれた。

「心配した。どこか俺が見つけられない所に行ってしまったのではないかと思って、挨拶週間の当番どころではなかった。頼むから、俺の前から居なくなる事だけはやめてくれ。故に俺から離れる事も許さないからな。」

抱きしめた強さから、本当に私の事が愛おしくて凄い大好きなんだなというのが分かった。

「心配かけてごめんなさい。今からでも藤城学園に私を連れて行ってくれますか?」

「その言葉を待っていた。」

そういうと、私の手を取って優しく車にエスコートしてくれた。助手席に座らせてくれた事が何よりも嬉しかった。だって、助手席は大事な人しか乗せないというのを私は聞いた事があったからだ。

「学園に着いたら、俺はお前に構ってやれなくなるぞ?それでも耐えられるか?」

「少し寂しいような気がしますが、私らしく生活するので大丈夫です。それに、真山先生とはいつでも繋がっていますから( ´∀` )」

「そうだな。後、お前に・・・結衣に渡したい物がある。」

真山先生は小さな袋を私に渡した。中身を空けるとブレスレットが入っていた。

「そのブレスレットは特注品で、俺がオーダーメイドした物だ。結衣が寂しがらないようにブレスレットの裏にこっそり俺の名前のイニシャルと結衣のイニシャルが彫ってある。世界に一個しかない物だから大切にしろよ?」

「・・・ありがとうございます!」

これでもう寂しくない。私はそう確信した。

「何かあったら、俺に連絡しろ。メールくらいなら噂にならないだろうからな。」

「はい!」

こうしてまた私たちの秘密の学園生活が幕を開けた。しばらくの間は一人一人の行動にはなってしまうけど、ブレスレットのおかげでなんとか生活できる気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る