第3話 少しのピンチと寂しさ

 実行委員会委員長になってから数日。私は朝早い時間から教室に籠って実行委員会の事務の仕事をこなしていた。すると同じクラスの男子生徒の如月斗真君がやってきてこんな事を言い出した。

「お前さ、これ噂なんだけどあの真山と付き合っているって本当なのか?」

「真山先生と!?そんなわけないじゃん。もしも私が付き合っていたら、簡単に周りにバレると思うし。」

「けどさ、お前いつも真山の授業の時は真山と仲が良いし何かと呼び出しされるよな?そんな事があれば疑われるのも無理はないと思うぜ?」

「まあ、普通に考えればそうなるよね・・・。」

「ま、気をつけろよな。」

そう言うと彼は朝練に向かった。危ない所だった。

「佐々木さん、少し良いですか?」

「真山先生!?お、おはようございます。何か用ですか?」

「今この時間は誰もクラスには来ないので、簡単に用件を伝えますが・・・。今さっき如月と話していなかったか?」

「少しだけですけどお話はしていました。それもかなり危なめの話で(;^ω^)」

「話は廊下で少し聞いていたが、噂が立つと後々大変な事になり兼ねないからしばらくの間俺はお前に関わる事を避けようと思う。」

「そんな・・・!」

あれ、今何で急に悲しくなったんだろう。心が締め付けられて苦しい。

「まあ、それもそれでお前にとっては苦だろうから俺の連絡先をこの紙に書いておいたから後で追加しておけ。」

「・・・。」

気が付けば私は自ら真山先生に抱き着いていた。いかにも手放すのが寂しいと訴えるかのように。

「大丈夫だ。お前と話が出来なくても、連絡先を交換してしまえばどうってことはないだろう?」

「こうして先生と抱きしめる事も出来なくなるのでしょう?私はそれが一番寂しいし何よりも、授業中に関わってもらえない事や普段のこれからの学園生活でも関わってくれなくなるのが、私にとっては堪らなく寂しいのです!」

「・・・お前なあ、いくら人がいないからと言ってあまり大胆な発言をするな。誰かに気が付かれたらどうするんだ?」

私は抱きしめる力を強めるとそれ以降、何も話さなかった。もう少しだけ、真山先生の熱を感じていたい。もう少しだけ、真山先生といたい。そう思っているから。

「というわけで、佐々木さん。よろしくお願いしますね。」

「待ってください!」

呼び止めたけど彼は・・・真山先生はさっさと行ってしまった。気が付けば朝の職員会議の時間だったのでそれなら仕方ないと、私は自分の席に戻って事務の仕事をこなしていた。


 お昼休みになってからいつもならお弁当を茜と食べるけど、今日だけは保健室に行って休む事にした。保健室に行くと若桜先生がいつもの様にゆっくりと寛いでいた。

「おや?君は・・・一ノ瀬先生のクラスの子だね。名前、何て言うのかな・・・?」

「佐々木結衣と言います。」

「俺は若桜郁人。養護教諭だよ。・・・元気なさそうだけど何かあった?」

「誰にも言いませんか?」

「女の子の秘密はちゃんと守る主義だからね。何でも話してほしいな?」

すると若桜先生は保健室のドアの前に相談中の掛物をしてからまた戻ってきて、私の傍に座った。

「・・・実は真山先生と恋愛関係にあって。それが今朝如月君にバレかけてしまって、真山先生本人からは少し距離を置こうと言われてしまって・・・。でも連絡先だけは交換してくれて。」

「なるほどねぇ・・・。実は俺と真山と一ノ瀬先生とは同期で、よく飲む仲間なんだよ。まさか真山が女子生徒と付き合うなんて思ってもいなかったけど、相手が結衣ちゃんだったとは・・・ね?少し驚いたよ。」

「真山先生ってどんな人だったんですか?」

「恋になかなか落ちない硬派な人・・・って言った方がいいかな?でも、そんな真山が君に恋してるなんて事は珍しい事だよ。」

「そうなんですね。」

「真山は真山なりに結衣ちゃんの事を大切にしてあげたいんだと思うよ?・・・そうじゃなかったら最初からこんなに親しくしないと思うし。」

私は若桜先生の話を聞いていて自然と涙が溢れてきた。さすが真山先生の同僚だなーと思いつつも、やはりどこか心の中に真山先生にはやく逢いたいし校内でも関わりたいという思いが、いつもあったのだった。

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