──夢を見ていた。

 あたり一面カラスの濡れ羽色の、ひどく悲しい夢だった。

 まだ純黒になりきれていない、緑や紫がうすく混ざり合った紛い物の黒。


 ──夢を観ていた。

 聞こえるのは、皮肉にもカラスの聲。

 そして、時折聞こえる車の流れる音。


 ──夢を視ていた。

 山奥で形骸を晒した〝それ〟を、誰かが運んでいる。

 を囲うようにカラスが舞い、濁った聲で何度も威嚇する。


 ──彼は看ていた。

 声にならない聲で、何度も、何度も──むくろに向かって嘆いた。

 届かないと知りつつ、その儚く白い命の成れの果てに──。

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