第4話 ドラキュラさんの視野は狭い

ハロー世間、今何をしている?

こうして話し掛けたとこで、気付く奴などいないのだろうが。

「さて、トマトの開拓といこう」

私の最早主食と言っていいリコピンの塊を、飽きない美味さに変化させていく必要がある。


「手間はかかるがな..」

食にリスクが無ければこんな事をしなくていいものを、枷が外れないことはもうわかっている。ならば枷を優しく緩めるしか方法は無い。

「昨日動画サイトで金持ちの成功者がそう言っていた」

〝成功者はみんなやっている〟とか書いてあったぞ、暇なのか?

「私は脳科学者とメンタリストしか参考にせんぞ。」

下手なお偉いは語るからな、酷く。

しなければならないとか言うのだぞ?

辛くても頑張れ、無理してでも頑張れ

「やってられるかミイラ共!」

ならばなんだ?

陽の光が苦手でも外を歩けと?

ニンニクで胃がただれようと食えと?

十字架で身を焦がし、銀で身体を焼かれても立ち上がれというのか!?

「..言いたくは無いが、あのドラッグストアは中々の高待遇だぞ。」

貴様らと私とではデメリットのレベルが違うのだ、よく膝に爆弾を抱えているなどと言うだろ?

「私の膝に爆弾があるとすれば、既に起爆済みだ。」

カウントの始まった爆破を待ち続ける恐怖を知らぬのだろうな、ふははは!


「そうこうしてたらできたぞ、トマトの冷製パスタだ..」

これだけは何故か直ぐに作れる、昔の知り合いがレシピを忘れて置いていったからな。

「これ開拓している事になるのか?」

考えてみれば料理どころか台所に立った事も殆ど無かったな。

「コンビニに行けば早いのだがな..」

いつも同じ格好で同じような時間に来る、確実にドラキュラだと解っているだろうしな。

「奴等は私をドラキュラ視している」

トマト関連の商品を買い続けていれば当然そうなるが認識されるのは痛い。

「顔を覚えられて嬉しいか?」

〝いつもトマト買う人〟がトマトを買わないと「今日は違うんですね」的な事を言われるのだ。

「勝手に解釈しているだけなのに...」


〝俺たちは家族だ〟〝仲間だ〟と決めつけるのと一緒だ。

「お前如きに母なる愛情は出せん」

群れで暮らすドラキュラもいる、いつも同じ店で同じ飯を食う。

「何が面白いのだガリガリの会合」

あの子の血を吸ったとか良いコート買ったなどと終始自慢話のみで終わる。

「挙句の果ての所持体制だ、輪の中から個人で抜きんでるのを許さん」

私はこれをポテトフライ現象と云う。


例えば飯会で個人的にポテトフライを頼んだとする。そうすると何故か他のものと違いポテトフライは中心に置かれ皆の所有物になる。

「私は横のケチャップを舐めるのみだが周囲はポテトを〝そういうものだ〟と判断している」

長々と下らん独自性を煽るエッセイのような事柄を話してるが事実だ。

「外に出ればどこでも直ぐにこうなる

故に頻繁にコンビニへ行くのは困難なのだ」

しかしならば大きな矛盾が一つある。


「何故私の不利は嘘じゃない?」

太陽も十字架も銀もにんにくも、全て身体に害を与える。全て真実。

「そこまで私が憎いのか世界...!」

ならば抗ってやろう、赴き否定してやるとするぞ。

「コンビニは歩いて5分、住まいの利点だ。」

気付いたのは済んだ後だが..

「いらっしゃいませー」

見ろ、到着までのショートカットだ!

ここに来る五分の間空を眺め、月を拝んだが既に過去の話だ。

「未来の話をこれからするぞ」

といっても決まりの品をレジに持っていくだけの乏しい現実、誰でも予知できる簡単な人生。

「余計なお世話だ..!」

あ、そうだ。

アレがあるといいのだがな。


「あった..深夜でも売れ残っていた」

オムすびよ、安心しろ需要はあるぞ。

表面の鶏卵の黄色が少し邪魔だが気になる程では無い。

「スパム握りと同類とのたまう奴がいるが心外だ、恥を知れ」

コアではあるが不人気では無い!

スパムなど〝アレ〟と同じだ。

「いやアレほどでは無いか、流石にあれを手に取るような..」


「あった、五目いなり。

これ好きなんですよね〜」「..何?」

五目稲荷だと!?

しかも単品、どこの猛者だ。

「あれ?

貴方もいらしてたんですか」

「はい、お前はっ...‼︎」

そういう事か、お前なら確かに。

「化狐、こんなところで..」

「こんばんは。

化狐ではなく白狐です、態とですね」

油揚げ狂いのコイツなら、味覚壊死でも仕方ない。

「五目稲荷を買うのか?」

「ええ、美味しいですよね。

偶に地味だと言う方がいますけど、スパム握りやオムすびよりはマシでしょう、形で繕うヤンキーですからね。」

派手な装いを否定して斜に構える事で奇をてらおうとしているのか。


「何をお探しで?」

「..トマトジュースだ。」

結局落ち着くのはここだ、結局な。

「トマトジュースですか..すいません

最近鉄分が足りて無いのですよ」

「それがどうした..?」

「ですからほら、有るだけカゴに入れてしまいました。」

「……。」

ヤブ医者め、採血のつもりか!





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