第2話 ドラキュラさんは愉しみが少ない
大体夜勤明けはイライラしている。
項垂れヘトヘトになって帰路に着くのに、周りは今から一日が始まる。
「ハキハキした挨拶などいらん..!」
故に今朝は初の試み。
朝の景色をがらりと変化させてみた。
「〝アズキーランド〟か。」
何故賑わう、一日が始まるのか?
早朝ならばと来てみれば既に人の山ではないか!
「暇なのか、客は皆夜勤明けか⁉︎」
嫌なのだよ。
愉しんでると思われたら、私はあくまでも平穏に朝を過ごしたいだけで娯楽を謳歌したい訳では無い。
「そうでなければ強い強い朝日の下で重兵装は施さん」
余り派手な行いをすると煩いからな。
「普通の感じが良かったのに」とか言われて、なんか色々勘違いした奴になってしまう。
「テラスの席で黒マントを羽織ったティアドロップの男は人々の目には普通と写るだろうか?」
明確な普通でなければ気をてらった奴だと思われるからな。
「勝手な判断を正義とし、少しでもズレが生じれば変わり者とする..」
意識して普通など出来るか!
ドラキュラの普通は朝眠る事だ。
トマトと棺桶とガリガリがマストだ。
「冒険ついでだ仕方ない、少し楽しんで帰ってやる。」
だからと言ってジェットコースターやらの〝絶叫系〟は不可能だ。極端な高さによって陽の光が近くなり過ぎる。
「絶叫する暇すら与えんぞ」
その様な、いきなり大トロ的な注文は出来ん。先ずはかっぱ巻き、卵当たりでフワフワしておきたい。
「だとすれば選択肢は二つ..」
地上に固定され、光の差し込みの甘いコーヒーカップ。そして緩やかな動きで導く観覧車!
「観覧車は太陽との距離こそ近いがゴンドラを介しての事、問題は無い。」
頂上でキスするモラルブレイカーも中にはいるようだが朝なら無関係だ。
どちらも盛り上がりに掛けるが知るか
個人で楽しめればそれでいい。
一発目に観覧車はトリッキーか?
だとすればおのずと...。
「お一人様ですか?」 「..はい。」
「それではお好きなカップにお乗り下さい」
「ほう..」
選択肢をくれるのか。
生憎好みの形状は無いが折角だ、敢えてスタンダードを選択しよう。
「安全に気をつけてお待ち下さい」
ふむ、この中心の円卓的なグリップでカップを回転させるのだな、面白い。
『プルルル..』
「開始の合図だ。」
さぁ笛を鳴らせ、直ぐにな。
「わぁ〜大変よ!
アズキー王国のコーヒー豆が盗まれて川に流されちゃった、今すぐカップに乗って犯人を追いかけて!!」
まさかのストーリー仕様か、いらんぞそんな配慮。あとちゃんと犯人とか言うな。
『回して、回して〜!』
「煽るな。
言われずとも誰しもがそうする」
円卓よ身体を預けろ。
「カップよ回れ!」
ふはははは、愉快、愉快っ!
「やはり正解だったな、これにして」
私は無敵だ、誰も回転を止められん!
アズキーランド、なかなか楽しい所では無いか!
「場合によっては通いも有るぞ..」
どうだ太陽、悔しいか?
今の私はお前の事などもう既に...
「熱ぁっ!」
なんだ、突然瞳が焼けた!?
「はっ!!」
ティアドロップがっ、目から離れて宙を舞ってる!
「回転の衝撃で飛んだのか..!」
急いで回収せねば、太陽に焼かれる。
「右斜下に急ドリフト!」
後は手を延ばせば..ダメだ届かない!
「もう少し..延ばせばっ!」
上手くいかないものだ、ティアドロップは遠ざかっていくのだな..。
「諦めて...」『カンッ!』「ん?」
何だ、ティアドロップが再度空へ。
「..もしや、偶々巡った隣のカップに弾かれて打ち上がり空へ?」
誰だか知らんがやるではないか!
「待っていろ、今向かいに行く。」
後は簡単だ。
私が同じ要領でメガネの軌道を読みつつカップを真下に付け、落ちてきたところをキャッチするそういう寸法だ。
「ここから推測すると
ポイントは..右斜め上だ。」
すかさず円卓を右へ回転暫く待機!
「よし、落ちてこい。
ゆるりと掴んでやろう」
我がティアドロップよ、瞳に戻れ。
「あっ」「痛っ..!」
「すいません、ごめんなさいね?」
カップルが..突然激突する奴があるか
「運転苦手なタイプだな...おいっ⁉︎」
カップの位置が、少しずれてる!
「マズいメガネ落ちてきあっ!」
カップの縁に当たって弾かれたっ!
「追いかけなければより遠く、に!」
更に隣のカップの縁に、そのまま更に隣のカップの縁にっ!
「マズい、私のティアドロップが次々と連鎖を起こしていく..。」
カッコつけて買ったからか?
身の丈に合わぬファッションに身を投じたからなのか。
「ヨルデハナイで流行りだと言っていたから買ったのだぞ?」
あの大人気お昼の情報番組
ヨルデハナイでな。
「次は観覧車乗ろう」
来る事がもう一度あればな。
潔く瞳を隠してカップから降りよう。
「悪いのはヨルデハナイお前じゃない、己の背丈を測れなかった私自身の愚かな目分量だ。」
どこか、心休まる場所に行きたい..。
「...あそこがいいか、良さそうだな」
大人500円か、最早安いか高いかもわからん。
「ではご堪能下さ〜い。」
「……」
「うらめしやー!」「......」
落ち着く。
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