1−7 プロローグかもしれないし、違うかもしれない。

「だからか。一匹のわりに力があると思ったら」


 神威がそう口にするとまた景色がぐるんと変わり、先ほどまでいた『今』の図書室に戻ってきた。そして、九字の網の中には何匹もの犬や猫が、悲しそうにこちらを見つめていた。


「可哀想過ぎる……、え?」


 そう口にする世莉を、神威はトンっと押して壁に追いやった。


「そこに居ろ。すぐに終わる」


「……助けて、くれるの?」


「それは無理だと言った」


「で、でもっ」


「こいつらが悪くなくても! 悪鬼になったからには、ほかに方法がないんだよ」


 罰悪そうにそう言うとくるりと彼は向きを変えて、悪鬼に足先を向けた。そしてその前で立ち止まり、また二本の指を宙に置いた。


「臨・兵・闘・者……」


 九字を切れば、さっきまでの可愛い姿は消え去り鋭い牙を爪を見せはするが、牙を彼に向けることもなくただ苦しそうにもがき始めた。ある猫はゆっくりと耳が剥がれ落ち、ある犬の尾は焼けるように消えていく。まるであの男がこの子たちにしたように――。


「や、止めて――!!」


「なっ!?」


 その姿を見ていることが出来ずに、世莉は神威を押しのけ彼の前で、悪鬼をかばうように両手を広げた。


「何やって」


「もうっ、これ以上苦しめなくていいじゃないですか!」


「このまま悪鬼としてここにいる方が、苦痛だってわからないか!?」


「だけどっ、こんなやり方! もっと他に方法が――」


 あるかもしれない。そう叫ぼうとしたとき、足元に暖かいものを感じて、世莉は自分の足元を見た。


 そこには1匹の猫がいて、世莉の足にすり寄っていたのだ。そしてほかの犬や猫たちも、倣うように世莉にすり寄って……。伝わる暖かさに、世莉の目から涙が自然と零れ落ちてきた。


「……ごめん、ごめんねぇ?」


 膝を折って両手を広げると、猫たちは自らその腕に飛び込んで世莉の胸にすり寄った。そして世莉の涙が一匹の猫に触れたとき、あたたかな光がその猫を包んだ。


 それは周りの猫や犬たちにも広がって、光はどんどん強さを増していく。


「すごいな、お前」


「……え? 私、なにも――」


 していないはずなのだけど……。


「別れの言葉を」


「……え?」


「自ら黄泉へ行こうとしてるんだ。今はお前の思いが、こいつらをここにつなぎとめてる。だから、別れを言ってやれ」


「……」


 みんなの目が世莉を見ている。みんな可愛く、幸せそうに見えた。


「ごめんね。次こそはみんな幸せになって。きっとなれるから、だから――」



 さよなら。



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