1−3 プロローグかもしれないし、違うかもしれない。

「それでは図書委員としては、わが校の歴史を発表ということでいいですか?」


 中央に座る委員長がそう叫んでも、誰も無関心で是も非もない。そこにいる世莉ですら『早く終わらないかなぁ』と心の中でつぶやくばかりだ。


 図書委員なんて月に一度、当番が回ってくるくらいであとは暇だと思っていたのに、文化祭では『何か』をしないといけないらしい。


 去年もやっていたらしいが、世莉も知らないしほとんどの生徒がそうだろう。ただやっている、程度で構わないのだが、それを形にするだけでもそれなりに労力は必要なわけで。


「それでは資料を集めてもらっていいですか? 縦割りで1組2組」


「はい――、え?」


「集めた資料の集約を3組4組、それから――」


 立候補を求めたところで、進まないのが目に見えてるからなのだろう。委員長は勝手に分担を決めると、全員のブーイングを聞きながら「解散」と委員会を終わらせてしまった。




「資料って……ねぇ?」


 1組の委員・大谷由紀子に言われ世莉も苦笑いする。ちなみに世莉は2組だ。あと、3年と1年がいるのだけど……。


「悪いけど、私たち塾があるから。1,2年で適当にやっといて。どうせ誰も見ないんだから」


 こんなわけで1年と2年の1、2組の図書委員4人が顔を見合わせてため息をつくことになった。


「面倒だから、早めに適当に済ませちゃう?」


 由紀子の声に、残りの3人もしぶしぶ首を縦に振り立ち上がる。勿論向かうのは図書室だ。


「うちの学校ってそんな歴史あるんですかね?」


 一年生の子にそう聞かれても世莉は「さあ、どうなんだろ」としか答えられない。創立何年すらも知らないのだから。


「あ、ここですね」


 もう一人の一年生の声に3人は駆け寄った。そこには、この高校歴代の卒業アルバムがあった。


「これ見たら、昔の校舎とか制服がわかりますよね?」


「うんうん、いつ建て替えたとかもあるだろうし?」


「こんなもんでいいですよね?」


「いい、いい! 3年も『適当に』って言ってくれたしね?」


 こんな会話をして、4人はにんまり笑って古いアルバムに手を伸ばした。


「うわっ、古っ」


「ザ.昭和って感じだよね?」


 そんなことを話しながら古いアルバムをめくっていくのだけど――。


「あれ? 昭和40年で終わってますよ? うちの創立ってここなんですか?」


「違うでしょ? もっと古いはずだよ。ほら、まだそこにある旧校舎すらここには載ってないじゃん」


 由紀子が指さす場所には古びた木造校舎があるだけで、窓から見える取り壊し寸前の旧校舎の姿はない。


「えー、ならこれより古いのって……」


 1年生の声に3人が見たのは旧校舎だ。


「確か、向こうにも図書室ってまだ残ってるって誰か言ってたよね?」


 世莉の言葉に隣で由紀子がこくんと頷く。


「必要なものだけこっちに持ってきて、古くて要らないものはそのままだって……」


 誰もが聞いたことある話に、4人は仲良くため息をついた。


「まぁ、嫌なことは済ませちゃおうか?」


 そして、この由紀子の提案にも全員が頷いて、旧校舎に向かうことにした。


「あ、でも鍵って開いてるんですか?」


「先生の許可とかって面倒ー」


 そんな1年の声に心の中で同意している世莉の目に、彼の姿が映って思わず「あ」と声を出してしまった。


「なに? 久遠さん」


「え? あ、うん。あれ……」


 世莉が指さす方向には、彼の姿。


「わっ、噂の転校生ですね」


「1年でも噂になってるんだ?」


「なりますよー。こんな田舎に似合わないくらい、かっこいいですもん。って、あれ? 旧校舎に?」


 彼とは勿論あの転校生のことで、その彼はというと先生らしき人物と旧校舎に向かっていた。


「これってめっちゃラッキーじゃないですか?」


「そうですよ! 鍵も借りなくていいし、もしかしたら御巫(みかなぎ)先輩と話せちゃうかも!?」


 興奮する1年生に「みかなぎ?」と世莉が聞き返すと、二人はそろって「はい!」と返した。


「御巫神威(みかなぎかむい)先輩です! もう名前までかっこいいですよね?」


 テンションマックスの1年に由紀子は「はは……」と乾いた笑いで答え、世莉は「みかなぎ、かむい……」と彼の名前を繰り返したが、下の名前は憶えられても苗字は無理だなぁ、なんてのんきに考えていた。


「でも確かに手間省けてちょうどいいかも。行こっか?」


 由紀子の声に1年は「はーい」とテンション高く答え、世莉も遅れて「そうだね」と歩き始めた。



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