1−2 プロローグかもしれないし、違うかもしれない。

「久遠世莉! あと3分で遅刻だぞ?」


 学校の駐輪場で声をかけてきたのは、同じクラスの真中(まなか)アユだ。


「あー、もう、脅かさないでよ? ってか、アユだってギリじゃない?」


「あはは、本当にね。ってなに、その髪。乱れまくりだよ?」


 言われて髪に手を伸ばすと言われた通りめちゃくちゃのぐちゃぐちゃだ。仕方ないから手櫛で適当に直すと、「ほら」とアユがブラシを鞄から出してくれた。


「世莉はもうちょっと女子力上げるべきだよ?」


「そんな時間あったらもっと寝とく!」


 そんな発言に、二人して顔を見合わせて笑う。


「こらー! 遅刻だぞー!」


 すると本物の先生に叫ばれて、二人して「やばっ」と走り出した。




 ホームルームも終わり、一時間目の授業が始まる。ここまではいつもと同じだったのに、今日はここから少し違った。


「わ、体育なんだ」


「どれ? あ、分かった! あの人ね」


 もうすぐ授業が始まるというのに、クラ

スの女子は落ち着きなく窓の外を見る。


「なんかあったの?」


 世莉が気になってそう聞けば、一人が「あのね」と話してくれた。


「昨日、季節外れの転校生が3年に入ったんだけど、これがすっごいイケメンなんだって! ほら! あの人!」


 少し興奮気味な彼女が指さす方向には、確かに見慣れない髪の色をした男子がいた。見慣れない、なんてどころではない。彼の髪は白、いや光輝く銀色なのだから。


「あれは、目立つね……」


 世莉がそう言うと、やはり彼女は興奮気味に「そうでしょ?」と楽しそう。


「あんな髪の色抜いて、先生に怒られなかったのかな?」


 こんな世莉の言葉に、彼女も周りにいたほかの女子たちも「ん?」と振り返った。


「何言ってんの? ちょっと明るめだけど、どう見ても地毛の範囲じゃん?」


「ねぇ?」と同意する彼女たちに世莉は「え?」と驚いてもう一度彼を見た。


「――っ」


「きゃあ! こっち見た!」


 間違いなく絡んだ視線に息を飲むと、周りの女子たちも黄色い歓声を上げる。そして、さっきは銀色に見えた髪が、ちゃんと普通の栗色に見えて、世莉は「あれ……?」と小さく呟いた。



 見えたあの髪の色は、太陽の反射でそう見えただけなのかも知れない。自分をそう納得させて、みんなと同じように教室を移動する。


「きゃっ、あの先輩だよ」


 小さなざわめきに顔を上げると、体育の授業から教室に戻る彼に出会った。


 さっきは一瞬だったし、遠かったし、何より髪に気を取られてよく見ていなかったけれど、この距離で見るとみんなが騒いでいる理由がよくわかった。


 背は高くまるでモデルのようなスタイルに、少し長めの髪は不自然なくらいサラツヤで、その奥にある瞳はオレンジにも見える。なにより、整った顔立ちは100人が100人『かっこいい』と評するだろう。


「世莉、見すぎっ」


「え? あっ」


 隣のアユに注意され目をそらしたけれど、時すでに遅し。もう彼は目の前で、しかも視線もばっちり合った状態だ。


「なに?」


「いっ、いえっ、何もっ」


 そう言って通り過ぎようとした瞬間、「お前――」と彼の伸ばした手が世莉に伸びてきた。


「え?」


 振り返って、その指が世莉に触れる直前。


 バチ――ッ


 強い静電気が走り、彼の手ははじかれるように遠のいた。お互いに驚いて、動けないでいると「かんなぎー」と声が聞こえ、彼は「あぁ、今行く」と世莉の前から居なくなった。


「うわぁ、間近で見ると本当にかっこいいね。みんなが騒いでるの分かるなぁ」


「……うん」


 さっきの静電気はなんだったのか。不思議に思いながら世莉は彼の背中を見送った。





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