第2-3話

「無茶をするな」


 責任者らしい一人が、険しい顔をしてあきらに向かって叫んだ。


「そちらは大丈夫ですか?」


 あきらが尋ねる。


「三人撃たれたが、かすった程度だ」


「怪我人がいるなら早く外へ運んだ方がいい。右後方に非常口があります」


「君達はどうするんだ?」


「そちらよりは身軽なので、後からついて行きます」


 緊張をほぐすために、あきらは笑顔で答えた。


「……分かった」


 しばらく無言で視線を交わした後、周りにいる職員達に指示を出し始めた。


 怪我人一人につき二人の職員が支えながら、機械の陰に沿って慎重に移動していく。


 あきらはその様子を見送ると、柱からほんの少しだけ顔を出して前を確認した。


「三、四……、全部で六人」


 通路の上でサブマシンガンを構えている、黒尽くめの人数を数える。


 上部の通路は部屋全体を回廊かいろうのように囲んでいる。しかし人影は前方に集中しているようだ。


 顔を引っ込め、柱に背中を預けて座る。


 機械の陰からこちらを覗き見ているみつると一姫に、左手を広げ、そこに右手人差し指を添えて人数を伝えた。


「声で伝えればいいのに。六人ね」


 身も蓋もないことを大声で言うと、一姫が物陰から飛び出した。


「私が時間を稼ぐから、そのすきにみつるさんとあきらで射手をやっつけて」


「一姫さん。待っ……」


「やっつけてってどうやっ……」


 みつるが止めるより先に、あきらが驚きの声をあげるよりも前に、一姫が猛然とダッシュして来るのが見えた。


 銃口が一斉に一姫に向く。


 一姫はあきらのいる柱より三メートル程手前の位置で立ち止まると、足を肩幅に開き、両手を腰に当て、顔を上に向けて睨んだ。


 胸の辺りが蒼白く光り、三角形の模様が服の上に浮かび上がる。


 銃撃音と共に火線が走った。


「あれ?」


 サブマシンガンの弾は、一姫の目の前に現れた光の幕に反射して、あらぬ方向に跳ね返った。


「うわわわわ」


 みつるが慌てて顔を引っ込めた。すぐ近くに数発着弾する。


「なんとっ」


 柱の陰に隠れていたあきらの頬を跳弾ちょうだんがかすめた。


 一姫はきびすを返し、みつるの居る場所へと駆け戻る。


「いや、その……、ごめんね」


 機械の陰から顔を出し、両手を合わせて一姫が謝った。


「恐ろしい……」


 頬から一筋ひとすじの血を流しながら、あきらは思わずそうつぶやいていた。


 銃を乱射してくる正体不明の集団よりも、ごめんね、で済ます一姫が怖い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る