第2-2話

「……わざとじゃないからな」


 そう言って手を離したとき、視界の隅で影が動いたような気がした。


 あきらは一姫を背後に隠すように動くと身構えた。


「私です」


 対面の機械の角から中腰でみつるが現われる。


「みつるか。大丈夫か?」


 あきらは安堵あんどの息を漏らした。


「私は大丈夫ですが……、一姫さんが大変なことになっています」


 あきらの背後を指差しながら、みつるが答える。


「私に恨みでもあるの?」


 苦しそうな声で一姫がつぶやく。


「い、いや……、悪い」


 ななめにねじれたような姿勢で、一姫は機械とあきらの背中に挟まれていた。


 どこかにぶつけたのか鼻の頭が赤い。


「なにが起きたの?」


 鼻をさすりながら一姫が聞いた。


「どうやら銃撃を受けたようです」


「誰が撃ったか見えたか?」


「一瞬ですが、四十メートル程前方の壁上部にある通路に、真っ黒い格好をした人達が見えました」


「複数いるのか」


 三人がいるすぐ前の機械の陰から、数発の銃声が響いた。


 どうやら税関の職員が撃っているらしい。


 間をおかず断続的な射撃音が響く。


 連続する着弾の音と飛び散る火花の量から、その激しさが分かる。


 すぐに税関職員達の銃声が止み、しばらくして全ての音が止んだ。


「これじゃ勝負にならないよなぁ……。こっちは単発の拳銃で、むこうはサブマシンガンか?」


「音からするとそんな感じですね」


「警察の特殊部隊にでも任せた方が良さそうだな」


「退路ですが、右の後方の壁に緑色に光っているEXITという文字が見えました。通ってきた通路を戻るより、外に出るには近そうです」


「税関の人達は?」


 一姫が尋ねる。


 図面が違っていたのなら、みつるの言う出口のことを知らないのかもしれない。


 あきらは斜め左前方、十メートル程離れた場所にある大きな鉄の柱を確かめた。


「ちょっとあそこまで行ってくる」


 あきらはそう言うと、機械の陰から飛び出した。


「気をつけて」


 背後からみつるの声が聞こえた。


 同時に銃撃音が響く。


 あきらは勢いをつけたまま、前方に飛び込むようにジャンプすると、床の上で一回転して柱の陰に隠れた。


 すぐに状況を確認する。


 左の壁に暗く狭い通路が見えた。


 その通路の奥にも壁が見えるが行き止まりではなく、おそらくT字路になっているのだろう。


 右を見ると、機械の陰に隠れている税関職員達の姿が見えた。

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