第6-3話

「その事件の手掛てがかりらしいけど、データセンターに情報がないの」


「iDCにない? ふーん……」


 水智は机の下に手を入れると、切り替えスイッチを操作して、正面の大型ディスプレイにiDC端末の画面を表示させた。


 すでにログイン済みなのか制限解除の手順も踏まず、次々とキーワードを打ち込んでは検索していく。


 目まぐるしくウィンドウが変化するので、香那には表示された結果を確認する間もなかった。


「ほんとだ。へんなの」


 水智は手を止めて、もう一度紙をじっくりと見ている。


「この、Birdieって人の名前だよね?」


「多分。ペットかもしれないけど」


「うーん。でも小鳥なんて名前付けるかなぁ」


 水智は小首をかしげている。


 たしかに良くある名前ではないけれど、可愛い名前にも感じる。


 犬や猫に小鳥って付けたら、少し変かもしれないけど。


「データの入れ忘れかな?」


「それもあり……、あれえ?」


 水智は中腰になると、数字と英語が混ざった文字列が間断なく流れ続けている、少し高い位置に置かれたディスプレイをつかんだ。


「どうしたの?」


 腕を組みながら深く椅子に座り直した水智に、香那は聞いた。


「桜井さんこの紙、FAXみたいだけど、どこで手に入れたの?」


「宇治土さんからだけど……」


「桜井さんに直接?」


「ええ。他に人がいなかったから。最初は黒川さんに連絡しようとしたみたいね」


 どうしてそんなことを聞くのだろう?


「ふーん……、桜井さんこれ調べた? ううん。調べたのはいつ?」


「この部屋に来る少し前かな」


「うわーん、やっぱりい」


 突然大げさな動作で水智が机の上にした。


「桜井さんが原因だったのかあ」


 うらめしそうに香那を見上げている。


「わ、私? なにが? なんで?」


 急に不安がよみがえる。


 最初に調べたとき、変な操作をして壊しちゃったのだろうか。


「iDCのブラックリストに載ってたみたい」


 水智は身体を起こすと、小さく舌を出した。


「私がリストに?」


「えっと、そうじゃなくて……」


 水智は紙を香那に見せながら、指差して説明する。


「この名前と期間をペアで検索ワードにするとね、攻撃を受けているとiDCの防壁ぼうへきが認識するトリガになるみたい」


「どうして?」


「うーん、それは分かんないけど」


「けど?」


「電子メールを使わなかった宇治土って人は、これがなにか知っていたのかもね」

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