第5-4話

「そんなに上手うまくいくものなのか?」


「なに? あきらはみつるさんの説に反対なの?」


 一姫が信じられないという顔をしている。


「一姫さん。私も確信があるわけではないですし、一つの可能性を話しているだけですので、様々な意見を言ってくれた方が嬉しいです」


 みつるが苦笑しながらたしなめるように言った。


「仮に暗示じゃないとしても別の方法はいくらでもありますね。金縛かなしばりにかけた、あるいは精神を憑依ひょういさせて操作したとも考えられます」


「なんだか急にオカルトチックになったな」


 あきらは身震いしながら、首を左右に振って意味もなく周囲を確認した。


「そんな能力者いるのか?」


「莫耶の調査ではみつかっていません」


「いないのかよ」


 思わず強めのツッコミを入れていた。


「話を元に戻しましょうか」


 みつるは気にする様子もみせず、言葉を続けた。


「そうですね。目撃情報の話を少ししたと思うのですが……」


「うん? ああ、地下通路でしたよな」


「事故現場の調査結果とは、明らかに異なることを証言している人も多数いました」


「ああ……」


 真偽の確認は後でも良いと言ったみつるに驚いたから覚えている。


「同じ事象じしょうを目撃しているのに、本人がそうだと思っていることと、周囲の観察者との間にずれが生じるのは何故でしょうか?」


「え? 何故って急に言われてもなぁ……」


 助けを求めるように横を向くと、一姫は小さく足を動かして見えないなにかをっていた。


 みつるが一姫ではなく、俺の味方をしたからねているのだろうか。


「全員が全員、故意にうそをついているわけじゃないんだよなぁ。しかし間違っているわけだな」


 あきらは思いついたことをそのまま口にした。


 エレベータに制動がかかるのを感じた。ゆっくりと速度が遅くなるのが分かる。


「だけどそれは、その人達にとってはそれぞれが現実で、言い換えれば人の数だけ現実が存在する。ということなのかもしれません。そして必ずしも本人が思っている現実が真実ではなく、また真実ではないということが虚構きょこうとイコールではないのです」


 みつるが補足するように続けた。

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