第2-2話

「えへへ。なんのこと? それよりなに? なんの用?」


 香那の方を向きながら後ろ手にキーボードを操作して、水智は実行してしまったワームの除去を急いだ。


 警告音が鳴らないように、セキュリティレベルを下げる。


「……忙しいみたいね」


「あはは。見ての通り大忙し」


 いくら顔だけ平静をよそおっても、必死に手を動かしているから、香那にはばれてしまっているようだ。水智は自棄やけになってそう答えた。


「そう、ならいいわ」


「うわーい、ちょっと待って、ごめんなさい」


 扉を出て行こうとしていた香那を、水智は慌てて呼び止めた。何故自分が謝っているのか良く分からないけど。


「……」


 無言で香那が振り返った。


 水智は姿勢を正すと息を止め、キーボードを叩くスピードを上げた。


 時間経過に比例して増す背後からのプレッシャーを跳ね除け、安堵あんどの息と共に最後のキーを叩いた。


 わずかに遅れて、赤い光に包まれていた部屋が青白く変わる。


 全てのワームを削除し終えた水智は、ディスプレイの表示が正常に戻ったのを確認すると、意を決して振り返った。


「そだ。安藤さんと長谷川さん、無事だったみたいで良かったね」


 目が泳ぐのを感じながら、話題を探してそう話しかけた。


「みつるって予知もできるのかな?」


「え? 弓波さんなにか知ってるの?」


「あれ? 桜井さんは知らないの?」


 突然アップで迫ってきた香那から距離を取るため、水智は背中を反らした。


 話題はれたけど、また余計よけいなことを言ったような気がする。


 香那は一歩下がると、サングラスの位置を直した。


「前に僕が作ってみつるにあげた発信機を、みつるが二人にあげたみたいで」


 明らかに不機嫌な様子の香那から、水智は逃げるようにディスプレイへと向き直った。


 説明しながら作業を再開する。


 下げていたセキュリティレベルを元に戻し、その間に侵入を許してしまっていた不正プログラムを削除していく。


「それで居場所が判って、すぐに救助に行けたんだよ」


「発信機……」


 香那がぼそりとつぶやいた。


「作った?」


「うわーん。技術的には画期的かっきてきなことをしてるんだよう」


 水智は再び振り返ると、賞賛しょうさんよりも非難に近い雰囲気を前面に押し出している香那に、涙目になりながら力説した。


「装置の小型化と大容量バッテリーという、相反あいはんする問題を解決しちゃっているんだから」


「ふーん」


 そう言いながら、香那は再び身を乗り出してくる。

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