第1-2話

「みつるさん、そんなことないよね?」


「みつるも違うと思うだろ?」


 あきらと一姫の二人は、ほぼ同時にみつるに意見を求めた。


「違いますね」


「ほらね」


 あきらは得意げにうなずいた。


「うぅ、みつるさんまで……」


 一姫は口をとがらせて、ねたような口調でつぶやいている。


「まず、、という言葉の使い方は文法的に間違いです」


「はっ?」


 二人は再びほぼ同時に聞き返した。


「違うという言葉は、形容詞ではなく動詞ですから、普通はとは言いません」


「いや、そういうことを聞きたいわけじゃなくて……」


 あきらは、顔が赤くなるのを感じていた。一姫は口を丸く開けて、みつるを見ている。


「もう一つ違うのは、ではなく、では、ということですね」


 みつるは右手の人差し指を立てて、真顔で答えた。


「えっ?」


 あきらと一姫の二人は、今日三度目の見事なシンクロをみせた。


 片目をつむりにこりと微笑んだみつるに、あきらはつられて笑顔を返した。


 しかしどこか釈然しゃくぜんとしない。


 バックミラー越しに一姫を見ると、同じ気持ちなのか、小首をかしげていた。


「あきら、そこで下りましょう」


「あ、ああ」


 あきらはみつるの指示通り車線を変更すると、シフトダウンしながら用賀出口へと車を進めた。そのまま環八通りへと出る。


「どうも話が脱線しまくっている気がするのだが……」


 あきらは気を取り直して、軌道修正を図ることにした。


「脱線というか、本題にすら入ってない気がするのだ」


 一姫があきらの口調を真似まねて、運転席と助手席の間から顔を出した。


「理由は明白だな」


 あきらはシフトレバーから手を離すと、手の甲で一姫の額を軽く叩いた。


「うあ」


 一姫は両手で額を押さえながら、大げさに後部座席に倒れこむ。


「そろそろ閑話休題かんわきゅうだいということにしましょうか」


「はっ?」


「それはもういいですから。本題に移りましょう」


 みつるは笑いながらうながした。


「ああ、うん。いや、実は本題にと言われても、整理できてなかったりするんだよなぁ……」


「連絡通路で話していたことの続きですか?」


「うーん、まぁそうかな」


 あきらは曖昧あいまい相槌あいづちを打つことしかできなかった。


 なにが知りたいのか、なにが分からないのかが分からないから尋ねようがない。


 いや、分からないことしかない、という方が近いだろうか。なんだか頭が痛くなってきた。

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