第4章 再帰的な決定可能性

第1-1話

 あきらは年季の入った旧式のセダンを運転して、首都高渋谷線を神奈川方面へ走らせていた。


 部署の規模が小さく人員も少ないので、対策室は専用車を持っていない。


 みつるの話しだと、調査室員が使用していた車らしい。


 黒塗りなのは、隠密おんみつで動くことが多いからという理由なのだろうか。しかしこれではかえって目立つような気がしなくもない。


 みつるが借りてきたときには、吹き出すのをこらえるのが大変だった。もう少し新しい車を借りられなかったのだろうか。


 助手席にはみつるが座っている。


 首都高に乗ってからずっと、目を閉じて全く動かない。


 眠っているのだろうか?


 バックミラーで後部座席を確認すると、左の窓から外の景色を眺めている一姫の姿が見えた。


 みつるに聞きたいことがたくさんあったような気がする。


 途中、色々なことがあり過ぎて、忘れていることもありそうだ。


 車間距離に気を付けながら、横目でみつるの寝顔を確かめる。


 大手町では、死んでしまうのではないかと不安になるほど蒼褪あおざめていた顔には、すでに血色が戻っている。


 人の心配をする前に、みつるはまず自分のことを大切にするべきだ。


「どうかしましたか?」


 何時の間に起きたのか、突然みつるが話しかけた。顔は真っ直ぐ前を向いている。


 寝ていると思って油断していたあきらは、思わず急ハンドルを切っていた。


 慌ててハンドルを戻して体勢を立て直す。タイヤがきしみ嫌な音を立てた。


「どうかって、な、なにが?」


 後続の車がクラクションを鳴らして横を通り過ぎた。


「あきらがどうかしているのは、昔からじゃない」


 乱れた髪を手で直しながら、一姫がつぶやく。


「というのは心の中にしまっとこ」


「いや、声に出てるし」


「無事横浜に着きたいから、前を向いて運転してね」


 後ろを向いたあきらに、一姫が微笑みながら注意する。


「一姫……、お前、俺達の前だと人格が違くないか?」


 一姫と出会った頃のことを思い出した。


 天の川神社での彼女の印象と違いすぎて、当時はかなり戸惑ったものだ。


「なっ、そんなことあるわけないじゃない」


 あせって否定したところを見ると、どうやら自覚はあるらしい。

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