第1-3話

「なにが起きているのか、みつるさんにはもう分かっているの?」


 目をかがやかせながら一姫がいた。


「いえ。分かっていません」


「なんだぁ」


「いや、仮説というか可能性の話でもいいから、最初から一度通して話してくれないか?」


 あきらは、漠然ばくぜんとした訊き方をしてみた。


「難しいですね。まずどこをもって最初と判断するのか、というのが問題でしょう」


「それなら新宿じゃないのか?」


「あきらは新宿から始まって、一連の出来事はつながっていると判断したわけですね」


「普通に考えたらそうなるような気がする」


 一姫が、あきらの気持ちを代弁する。


「そうですね……、つながりを考えるには、未知数が多すぎるように感じますから、節点せってんだけを取り出して可能性を考えてみましょうか」


 相変わらず、みつるの言うことは分かり難い。


「その前にあきら、第三京浜に乗ってください」


「お、おお」


 あきらはあわててハンドルを切ると、第三京浜へと続くレーンに入った。


 できればもう少し早めに指示を出して欲しいが、道路を全く知らない自分が言うのも気が引けた。


「じゃあまず、新宿についてね」


 一姫が嬉しそうにそう切り出した。


「考えられるのは、事故、又は事件、あるいは両方といったところでしょうか」


「なんだか当たり前なことを言っているみたい」


「その通りです」


 一姫に向かってみつるが微笑む。


 はしゃいでいた一姫が、一瞬ひるむのが見えた。


「事故なら特に考えることはないよな。事件だとしたら誰が、なんの為に起こしたかだが……」


 浮かんだ考えを、あきらはそのまま口にする。


「テロ、とか?」


 一姫が、あきらの言葉の先を続けた。


「データセンターの情報を確認しましたが、今のところ犯行声明のようなものが出された形跡はありません」


「だとすると、やっぱりさっぱり分からんな」


「なんだ。思いついたのは、テロだけなの?」


 一姫が悪戯いたずらっぽく笑う。


「そう言う一姫には意見はないのか?」


「なっ、あるわよ。その、なんというか……」


「無理しなくて良いぞ」


「べ、別に無理してないし」


 一姫が慌てて否定する。


 その言葉とは裏腹に、腕を組んで首を傾げ、一生懸命考えている一姫の姿がなんとも可笑しく、あきらは吹き出しそうになる。

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