第3-4話

「他の警備員が駆けつけたときには、既に悲鳴を聞いた人達が集まっていて、騒ぎになっていまして。口から血を流してうめいている北村と、資料室のすみで頭を抱えて苦しんでいる子供を発見したわけです」


「社員の誰かが、子供を連れてきたということか?」


 幾つも疑問点が浮かんだが、とりあえず一番気になったことを修は尋ねた。


「今調べていますが、それはまずないのではないかと……」


「何故? セキュリティを考えたら、部外者が、しかも子供が侵入したと考える方が、無理があるだろう」


 システムが正常に働いていることは、ゲートを通るときに嫌というほど体験してきたばかりだ。


「その、監視カメラの映像が残っていまして……。侵入した経緯の一部始終が映っているのを確認しました」


 狩野は足を止め、二人に背を向けたまま震えている。


 システムエラーなのか、元々あった潜在的なバグなのかは知らないが、死角となっている箇所があり、たまたま侵入を許したということだろうか。


 しかしそれにしては狩野の態度がおかしいような気がする。歯を折られたという警備員の証言も気になった。


「いずれにしても、原因は分かっているということか……」


「いえ、その少年は……、子供というのは七、八才くらいの男の子なのですが、正面からゲートを通過して、真っ直ぐ資料室へ向かい、扉を開けて中に入ったようなのです」


 修のつぶやきが聞こえたのか、狩野が困惑した表情で振り返り、そう説明した。


「はっ?」


「えっ?」


 修と彩の二人は同時に訊き返していた。


 さり気ない動作で彩は修の肩から身を離し、彩には大きすぎるジャケットのえりや肩の位置を直している。


 下を向いているので表情は見えないが、おそらく自分と同じく、狩野の言葉の意味を考えているのだろう。


 それにしてもどう解釈すれば良いのか分からない。


 その少年は莫耶の社員ということだろうか?


 しかも生化学実験センターの社員か、そうでなければ自分達調査員以上の権限を持った特別な社員ということになる。


「その、ゲートでは端末を操作してなにかしていたようなのですが、ログは残っていません。資料室の扉が開いたのも不思議なのですが。所持品を確かめましたが、特になにも持っていませんでした」


「そのとき警備員はどこに? ゲートにはいなかったのか?」


 修は当然誰もが思うだろう疑問を口にした。

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