第3-5話

「いえ、いました」


「どういう……」


 修がもう一度問い質そうとしたとき、狩野がさえぎるようにして言葉を続けた。


「目撃者はいません。誰も少年が資料室まで入っていくところを見ていないのです」


余所見よそみでもしていたのか?」


 違うと分かっていても、そう訊かずにはいられなかった。


「カメラの映像を見た限りでは、警備員の目の前で端末を操作していたのは確かです。ゲートだけではなく、通路でも何人かすれ違っているのが映っていたのですが、誰に訊いても少年など見ていないと口をそろえたように答えるので。なんだか幽霊でも相手にしているような気になってきて、気味が悪いとういか……」


 狩野の声が段々と小さくなっていく。


「そこにいるのに、誰も見ることができなかった」


 隣でポツリと彩がつぶやいた。


「ああ……」


 ここに至ってようやく修は理解した。


「な、なにか分かったのですか?」


 狩野は期待と不安が混ざったような目で、修達二人を見ている。


「いや、まず少年に会わないことには、なんとも言いようがない」


 修がそう答えると、狩野は緊張したように顔を強張こわばらせてうなずき、再び歩き出した。修と彩が後に続く。


 ある特定のものを認識させないという力なら、催眠術さいみんじゅつでも良く聞く。


 逆に、まるでそこになにかあるように、誤った認識をさせることもできる。


 大勢の人間をまとめて一度にとなると、それなりの技術が必要になるとは思うが、度々たびたび催眠商法などが問題になっていることを考えれば、それほど難しいことでもないのだろう。


 疑問なのは、セキュリティを突破した方法だ。


 人間相手ならその力も通用するのだろうが、コンピュータを相手にどうやってだました? そういった能力も存在するというのか?


 いや……、重要なのはそこではない。


 修は肝心かんじんなことを忘れていることに気が付いた。

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