第3-1話
「事故に巻き込まれたの? 大丈夫?」
心配半分、興味半分のように訊いてきたのは、環境問題対策室に所属している桜井
安定を保つため、右手の甲に紋章のような補助回路を埋め込んでいる。夜でもサングラスをかけていることが多い。
みつるの机の周りに、あきらと香那が集まっていた。
「ああ、みつるがいなかったら、ちょっとやばかったけどな」
「そうですね。ガソリンスタンドに突入する前に、火の海になるところでした」
苦笑いしているあきらに、みつるは笑いを
「うっ、それは……」
みつるの言葉に反論できないのか、あきらは顔をしかめて
「積載物、液体燃料?」
香那とみつるが顔を見合わせて笑いかけたとき、みつるのすぐ耳元で
「うわっ」
いきなり背後から声が聞こえたことに驚いたみつるは、不覚にも腰を浮かし、声を上げていた。
「い、衣鳩さんでしたか」
思わず顔が引きつりそうになる。気配を消して近づいてくる意味が判らない。みつるは衣鳩に対して、若干の苦手意識を持っていた。
椅子に座り直しながら前を見ると、あきらが目を丸くしてみつるを見ていた。サングラスで表情は見えないが、香那がこちらを向いたまま固まっている。
「失礼」
みつるは
「事故の報告書はまだか?」
黒川所長代理が、あきらとみつるに向かって怒鳴った。
多分苦笑いなのだろう。みつるのすぐ横で、衣鳩の表情が
「今、お持ちします」
みつるは急いで乱れた書類を整えると、所長席へ小走りで向かう。
「事故なのか事件なのかは判りません」
黒川に報告書を手渡しながら、みつるはそう告げた。
衝突の直前に
自分がなにを視たのか。そのことがなにを意味するのかも整理できていなかった。
当然報告書にもそのことについてはなにも書いていない。
改めて考えてみると、実際に存在したのかどうかも怪しく思えてくる。
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