第2-3話

「みつる!」


 あきらがもう一度名前を呼ぶと、唐突とうとつにみつるの表情がやわらいだ。


「大丈夫です」


 おだやかで冷静ないつもの口調に戻っている。


 他の誰かが聞いていたら、淡い日差しの中を散歩しているような、そんな安らかな調子に感じたのではないだろうか。しかしあきらは、その声の中にかすかな震えが含まれていることに気が付いていた。


 二人のわずか数メートル先で、タンクローリーははじかれたように向きを変えた。


 押し出された風が吹き抜ける。


 縁石えんせきに乗り上げ、さくを壊し、急激にスピードを落としながら歩道を横切ると、強烈な破壊音と共にコンクリートの外壁に衝突した。


 壁が崩れる音とガラスが割れるような音が周囲に響いた。幸い、ガソリンや積荷の燃料が漏れた様子はない。


 あきらは大きく息を吐くと、みつるの肩に手を置き、素早く周囲を確認した。


 見える範囲でしか判らないが、どうやら怪我けがをしている人はいないようだ。


 前面が三分の一程ひしゃげた運転席をのぞいてみると、やはり誰も乗っていなかった。


「黒川さんの仕事を、また増やしてしまいましたね」


 金光花きんこうかが描かれた崩れた壁の一部を拾い上げ、その破片はへんを見せながらみつるが笑いかけた。


「遅れた言い訳を考える必要はなくなったし。報告しにいくか」


 気が重いがしょうがない。


 停止したタンクローリーの周りに、人垣ひとがきが出来始めていた。坂の上の方からは、救急車と警察のサイレンが近づいてくる。


 あきらとみつるの二人は、互いに目で合図を送ると、エネルギー研究所の正門へ向かって走りだした。

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