第2-2話

 街路樹をぎ倒し、蛇行しながら、フロントがひしゃげたタンクローリーが猛烈な勢いで迫ってくる。


「暴走車か!」


 叫ぶのと同時に、あきらの瞳が赤く輝き始める。


「あきらっ」


 鋭いみつるの声に、あきらは咄嗟とっさに集中を解いた。


 タンクローリーの側面に書かれた液体燃料という文字に気が付く。


 狙いは俺か?


 喰いしばった歯がきしむ。一筋の冷たい汗が流れた。


 なにか。


 重要ななにかを忘れているような気がする。


 この先。


 坂の下にある建物はなんだったか……。


「まずい! ガソリンスタンドがあったはずだ」


 あきらは叫んでいた。


 このまま液体燃料を積んだタンクローリーが突っ込めばどうなるか。


 想像する必要もないくらい明らかだ。


「大丈夫」


 落ち着き払った声でみつるが答える。


 あきらが振り向くと、丁度ちょうどみつるが歩道から車道へと歩き出て行くところだった。


 道の真ん中で立ち止まると、暴走車の方へと身体を向ける。


 あきらはみつるのそばへ急いで駆け寄る。


 途中、みつるの瞳が青白く光っているのが見えた。


 氷河がきしむような硬質な音が辺りに響きだす。


 あきらはタンクローリーへと目を向けた。


 下り坂でスピードがさらに増しているようだ。


 ひび割れたフロントガラス越しに運転席を確認する。


 無人なのか……?


 突然、視界が揺らいだように感じた。


「みつる? どうした!」


 振り向いたあきらは、口元をゆがめ、目を見開いているみつるの姿に驚いた。


 過去にこんな表情をしたみつるを見たことはない。足元がぐらついているようにも感じる。


 みつるがつぶやいている声が聞こえたが、なにを言っているのか判らなかった。

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