第1-3話
「昨日ご依頼された件ですが、東京駅丸の内口周辺で原因不明の震動が観測されている。というものがございました」
「そうか。あったか」
黒川は口元に手を当てて
「調べるように依頼してくれる?」
顔を上げて衣鳩を見る。
「調査依頼書を作成致します」
衣鳩は頭を下げた。
疑問に思っているだろうに。席へと戻る後姿を見ながら、必要なこと以外口にしない衣鳩に、黒川は内心感心していた。
黒川の為に
先程衣鳩に頼んで統括管理室へ回してもらったビジュアルメールの映像だ。研究所内全ての部署の各モニターにも、同じものが映っているはずである。
本来なら昨日朝に生中継される予定の演説だったが、渋谷の事故の影響で、エネルギー研究所だけ延期になっていた。
きっと何時にも増して長くなる。
黒川は溜息をつくと、スピーカのボリュームを絞った。
衣鳩がちらりと視線を向けてきたが、なにも言わず、すぐに自分の仕事に戻ったようだ。
放り出していた仕様書を手に取った。
システム名称欄に
ぱらぱらとめくりざっと目を通した感じだと、大まかな仕様とテスト、その結果についての資料のようだった。
ページ番号があちこち飛んでいるところを見ると、見せたくないところを抜いたのか、あるいはその逆で重要なところを
黒川はテスト結果の備考欄で目を止めた。
仕様書の最初のページへ急いで戻り、システムの概要について何度も確認する。
前のめりになっていた姿勢を戻すと、椅子の背に深く座り直し天井を見上げた。
薄暗い研究室。シリンダ。歪んだ影……。
過去を振り払うように頭を振った。
頭の隅に険しい表情をした莫耶
会長の息子。莫耶本社社長である莫耶総一郎とは、準備室時代から付き合いがあった。
黒川が準備室のメンバーだった当時、総一郎は直属の上司だった。
準備室とは犬猿の仲であった研究室とのいざこざに対し、総一郎が間を取り持ったことも少なくない。
黒川がエネルギー研究所へと配属されたとき、総一郎は莫耶本社の社長に就任していた。
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