第1-4話

「全社一丸となってあたってもらいたい……」


 ぼそぼそと小さく聞こえていた音が途絶とだえた。モニターの表示が消える。


 時計を見ると二十分程経過していた。


 所内の各所で、モニターに注目して静止していた研究所員達が、解放された喜びを噛みしめるように再び動き出す。


 莫耶セキュリティセンターに、電子サービス分館、生化学実験センター分館、図書情報分室、システム生物研究所分室、分散ネットワーク研……。


 新宿の陥没事故で被害を受けた莫耶の施設を挙げたらきりがない。


出利葉いずりは白館しろだてがいないな……」


 少し前まで映っていた圭一郎の苛立いらだった顔を思い出しながら、考えていることとは別のことをつぶやいていた。


 二人がいつもいるデスクに姿がない。


 朝からいたのかどうかも思い出せないことに気付いたが、各所との調整にいそがしくて気が回らなかったからだと自分に言いきかせる。


 決して年のせいではないはずだ。


「お昼からまだお戻りになっていないようです」


 衣鳩が抑揚よくようのない声で答える。


 独り言に気を付けよう。


 そう新たに決意した黒川は、黙々もくもくと自分の仕事をこなしている衣鳩の様子を横目で見ながら、今日何度目かの溜息をつくと、仕方なく机に目を戻し、まず手始めに多量に届いているメールのチェックから始めることにした。

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