第1章 世界に属さない主体が真となる可能世界

第1-1話

 渋谷という場所にはあまり似合わない、威圧的な印象を与える巨大な建物がある。


 門に付けられた金色のプレートには、莫耶ばくやエネルギー研究所と書かれている。


 その門の左側には守衛用の小屋が建てられ、敷地内に入るには社員証を兼ねたセキュリティカードを、門脇に設置されたセンサーにかざす必要があった。


 さらに各建物内に入る場合には、その都度セキュリティレベルに応じたチェックを通らなければならない。



 莫耶はIT関連事業を中心に、1990年代半ばから2000年初頭にかけて急成長した企業であり、現在は研究所や実験施設を全国各地に設けている。


 その内の一つであるエネルギー研究所(通称:エネ研)は、日本全国から莫耶が独自に人材を集めて設立された。


 他にはない特徴があり、表向きは次世代エネルギーの研究として、実際は非公開で非合法に近い活動を行っている。



 エネ研の前身であるフロンティア研究準備室に所属し、特異な事象じしょうの調査・対応を行っていた黒川誠くろかわまことは、その実績を買われてエネ研設立と同時に中枢である環境問題対策室に配属された。


「なんだ、この荷物は?」


 昼食を終え対策室に戻ってきた黒川は、午前中にはなかった多量のダンボール箱が、入り口横の柱の影に山積みされていることに気が付いた。


弓波ゆみなみさん宛ての荷物です」


 所長秘書である衣鳩いばとが席を立つと、感情のない機械的な声で答えた。


「あいつか。管理室の方に届け先を書くよう、弓波には言ったはずだが」


「私的な注文なので、直接届けられると室長に怒られるとのことらしいです」


「俺なら大丈夫ということか?」


 黒川は衣鳩に苦笑を返した。


「中身はなんだ?」


「ネットワーク接続の外部記憶装置のようです」


 衣鳩が受領票を確認しながら答える。


「またか。いったい奴はなにをしている?」


 黒川はダンボールの山を見ながら、溜息をついた。


「前のも合わせると相当な数だよな……」


 昔に比べて値段は下がっているとはいえ、安くはないだろうに。良く判らない奴だ。


「昨日の分を含めて、トータルで百二十七個です」


「ああ……、そう」


 かれることを予想して、前もって数を調べていたのだろうか。


 頭を掻きながら所長席へと向かうとコートを脱ぎ、パソコンの電源を入れた。


 すぐ後ろに置かれた木製の洋服掛けにコートを掛け、革張りの椅子に座る。

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