第2-a話
妻のはるなが朝御飯の支度をしている。キッチンから焦げたベーコンの匂いが漂ってくる。
リビングに置かれたテレビには、臨時ニュースが流れている。
運転士の仕事をしている井上
秀樹が運転する車両が渋谷駅ホームへ滑り込み、停車しようとしていたときに事故は起きた。
もう少し遅い時間に発生していたら、無事では済まなかっただろうな……。
そう思うと背筋に冷たいものが走る。事実、井上の同僚運転士が捲き込まれて亡くなっていた。
「あなた?」
お盆の上に作りたての朝食を載せ、はるながテーブルの前に立っていた。
「どうしたの? 怖い顔して」
「ああ、なんでもないよ」
秀樹は不安を悟られないように、料理を並べるのを手伝った。はるなに余計な心配をかけさせたくはない。
秀樹とはるなは幼なじみだった。大学在学中にプロポーズして、卒業と同時に二人は結婚した。
「紀子はまだ寝ているのか?」
結婚後間もなく生まれた一人娘である紀子は、四月に幼稚園へ入園することになっている。
「ええ、ぐっすり眠っているみたい」
はるなは紀子の寝ている部屋をちらりと覗くと、微笑みながらそう答えた。
秀樹は出勤の時間が迫っていることに気付き、急いで食事を済ませた。
紀子の寝顔を見てから玄関へ向う。
「行ってくるよ」
はるなの手によって綺麗に磨き上げられた革靴を履き、鞄を受け取る。
玄関のドアノブに手を伸ばしかけたそのとき、紀子の寝ている部屋から悲鳴にも似た泣き声が聞こえた。
その声の異常さに驚いた二人は顔を見合わせると、慌てて紀子の部屋へと駆け込んだ。
靴を脱いでいた分、秀樹は少し遅れて部屋に入る。
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