41話 夏祭りのおさそい

 空の青さがうらめしい。


 妙に落ち着かない空気が教室中に蔓延してる中、それなりの速度で春が過ぎていき、いよいよ校舎までの坂道をのぼるだけで汗が額から流れ落ちるような暑い季節がやってきた。


 うわついた空気はうわついたまま夏の熱気のせいで熱膨張を繰り返し、教室中、いや、二年生クラスのある校舎二階のすべてが針の一刺しで爆発しそうな、そんな緊張感を放っている。


 すべては『恋愛』のせいだった。


 恋愛という名の熱病は、夏の熱気を受けていよいよ重篤な病と化している。

 俺は恋愛に興味がない――興味がないが、右を見ても左を見てもこの熱病に罹患している者ばかりの状況だと、恋愛に興味がない理由というやつをいちいち捻出しなければ興味がないと言うことも許されず、率直に言ってすごくうざったかった。


 あるだろう、『興味のない話題なので好きでも嫌いでもないのだが、世間がその話ばっかりするので否応なく耳目にとどき、結果としてうんざりし、嫌いになる』ということが。

 俺にとっての恋愛話というのはまさにそんなものと化しており、今では恋愛熱病患者がそばを通るだけでわかるぐらいには忌避感を覚えてしまうようになっていた。


 そんなわけで熱病に罹患したクラスの連中と距離をおきたい俺にとって、目前に夏休みがせまっているのはいかにもちょうどよいタイミングだった。

 なにより高等科二年生の夏休みである――俺は将来のため、生ききるためにこの夏休みで成績をさらに上げ、勉強のおさらいをし、将来へのレールを確固たるものにしておきたい。

 だからマーティンなどから夏休みのスケジュールをたずねられた俺は、常に『一人で勉強』と切って捨てるようにしてきた。


 このあいだから協定を結んでいるシーラならば一緒に勉強してもいいし、アンナさんやミリムと会う予定はあるのだが……

 恋愛熱病患者は『他者も自分と同じ熱病にかかっている』と思い込む性質がある。

 やつらは異性とのスケジュールをちらつかせると『お前も恋愛か?』と身を乗り出してくる傾向があって、それがとても邪魔くさいので、俺は夏休み、断固として『一人で過ごす』という態度をくずさなかったし、ミリムたちと会うことを少しも漏らすことはなかった。


 そんなわけで俺のスケジュールは勉強と勉強とあと勉強で埋まっていく。

 ここまで勉強してどうするのかと自分でも思うことはある。しかし俺は恋愛に興味があると勘違いされるのは業腹であり、どうやら『恋愛』の対極に『勉強』がある(と思う者が多いらしい)ので、俺は恋愛熱病をはらうためにも必要以上に勉強に熱をあげていった。


 そんなおりだ。


 勉強まみれのスケジュールでミリムにさえ「遊んだほうがいいよ」と言われる始末になった俺に、一通のメッセージがとどいた。

 送り主を見た瞬間、あまりの懐かしさに俺の心は一時中等部時代に戻る――そう、メッセージを送ってきたのは、俺が高等部に入ってからあまり連絡をとっていなかった、カリナからだったのである。


 かつての同志、ともに前世を記憶せし者、『暗黒の令嬢』『魔炎を操りし者』……中等部時代の記憶は痛みとともに俺の脳髄に刻まれている。すごくイタイ。


 しばらくフラッシュバックのせいでもだえてからようやくメッセージをまともに見ることができた。

 久々に連絡をしてきた彼女は、簡単なあいさつと前置きをしてから、こんなことを俺に告げた。


「『祭り』で売り子をやってほしいんだ」


 ――それは〝約束〟された〝再会〟。

 かつて〝前世〟の〝因縁〟ゆえにともに過ごした〝同志〟からの、他の人には頼めないような救援依頼だった――

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