20話 トレンドとマジョリティ

 俺は性別で人を区別しない。


 だってそうだろう、性での区別になんの意味がある?

 性別にかかわらず、多くの者は俺を迫害する存在だ。

『マジョリティ』――それは俺が百万回の転生で一度もなることのなかったものだ。俺は常にマイノリティであり、すべての生命は俺より価値が上で、それらから迫害され続けてきたのだ。


 人類は『俺』と『それ以外』でわけられる。

 だから俺は性別を理由に交友する相手を選んだりしないのだ。


「女子と遊ぶとかダッセーよなあ!」


 だよなー!

 俺は性別で人を区別しないが、女子と遊ぶのはダサいと思う。


 クラスの男子のあいだで女子と遊ぶのはダサいという風潮が広がっていた。俺もそう思う。理由? 理由はまあないけど、なんかダサいっていうかさ。トレンドじゃないんだよ。


 だから俺は男子とばっかりつるんだ。男子はいい。気楽だ。

 男子の中で男子と遊ぶのがトレンドなので、そこに乗っかることで俺の存在感を消すという目的もあった。俺の初等科での目標は『目立たないこと』で、それは今後一生抱き続ける目標のはずだ。


 そもそも俺がテストとか運動関連で目立ってしまってるのも、シーラがやたら張り合ってくるからで、つまり女子のせいだ。

 あの赤毛の女め。なんで俺を目のカタキにしてやがる。なんでことあるごとに俺につっかかってくるんだ。やっぱり女子はダメだな!


「レックス、お前、家に女子呼んでね?」


 クラスメイトのマーティンが言う。女子を呼んでいる――心当たりがなかった。なんのことだかさっぱりわからない。俺は当然よくわからないという対応をした。しかし別のヤツが言う。


「三年生の女子とか呼んでるだろ」


 三年生の女子?

 俺は気づいた。アンナだ。アンナとミリム……俺たちの交友は今も続いており、だいたい四週間に一度ぐらいの頻度だが、二人は俺の家に来るのだった。


 まいったな、やれやれだぜ。どうやら初等科一年のガキどもは同級生の女子のみならず、年上も年下もひっくるめて『女子と遊ぶのはダサい』と思っているらしい。

 まあいい。俺の目的は『目立たないこと』だ。穏便にこの場をおさめよう。俺はすでに五歳。愛想笑いも身につけている。初等科一年生といえば大人だ。俺は笑顔で大人の対応をしようとした。


「もう女子とか家に呼ぶなよー。女子臭いからさー」


 は? ぶっ殺すぞ。


 俺はキレた。意味がわからん。だいたい『女子と遊ぶな』とかなんだよ。どうしてお前にそんなこと言われなきゃならないわけ? だいたいミリムが女子臭い? 幼稚舎通いの女児に女感じてんじゃねーよマセガキ!

 俺はケンカした。『目立たない』『目立たない』『目立たない』。三回心の中で唱えた。以前の人生で身につけた格闘術を駆使してクラスメイト男子たちをボコッた。俺は一人。お前らは十人。だが戦いは数じゃない。戦いは……意思の力がものを言う。


 俺は俺とミリムを引き離そうとするあらゆるものを許さない。『目立たない』『目立たない』『目立たない』。三つ唱えて息を吸う。三つ唱えて息を吐く。関係ないやつを巻き込みつつ俺は戦った。昼休みにやったせいであらゆるクラスの生徒が見に来て、最終的に先生が四人ぐらい来た。


 最終的にみんなで『ごめんなさい』して仲直りし、その後クラスでは『女子と遊ぶのはダサい』と言うやつはいなくなった。

 よかった、これで女子と遊んでも目立たずにいられる。

 俺は今週末もアンナやミリムと遊ぶ予定だ。

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