7話 できすぎた先輩
後輩との関係性に悩んでいる。
ミリムは本当におとなしい。基本的にペタンと座って、指をくわえて、じっとしている。
俺がなにをしても全然動かない。遊びにさそっても動かない。くすぐっても動かない。食事もおとなしくする。ただ、静かにオムツを汚すのだけはやめてほしい。泣いて教えろ。
この獣人の女の子は放っておいてもよさそうなぐらいおとなしくて、実際、もし俺がただの二歳児だったらミリムのことは放置して同期連中と交友を深めてそうなのだが、俺は百万回の転生をした転生者である。ミリムのおとなしい態度について理由を推測するぐらいはできる。
ミリムは、俺を監視しているのだ。
最近はどのような時も彼女の視線を感じる。食事もトイレもジッと見られている。
遊ぶ時だって、こいつは俺がお気に入りの立方体を持たせてやってるのに、立方体になんか興味がないみたいに俺の顔ばっかりジッと見ている。
こうなると俺は『なにか失敗をしたらいけない』とおびえて、一つも
「……ねえ、レックスくんさ、ミリムちゃんのお世話完璧すぎない?」
「そうよね……手間がなくていいんだけど、二歳児の動きじゃないっていうか……見てて、なにかあったら知らせてもらうぐらいでよかったのに、すごく助かる……」
……罠だった!
そうだ、俺は二歳児だ。二歳児相応の肉体を持ち、二歳児相応の感情発散をする。
しかし俺は転生者だ。ひとたび強い意思をもって『ミリムのお世話を完遂しよう』とこころざしたならば、満足に体が動く今、できてしまうのだ。
この意思力はたしかに怪しい。
二歳児なんだからお世話とか放置して遊ぶべきだった……!
……今からやめるか?
だが、今度は『噂したのを聞いて、あえてやめた』と思われてしまうだろう。
くそう、油断した。
このままミリムのお世話を完遂するしかないようだ。
俺はミリムの背中をぽんぽんたたいてゲップを出させながら、今後の予定について思いをはせる。
ミリムはそんな俺の顔を、黒い瞳でジッと見つめていた……
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