わざわざ、名前を挙げるまでもない活躍だったということですよね?
「日頃からのご声援本当にありがとうございます。出来れば、今日の試合は勝ってからこうして皆様にご挨拶したかったのですが、残念ながら私達の力不足で、シーズン最終戦に勝利することは出来ませんでした」
萩山監督に代わって、次はキャプテンの阿久津さんがマイクの前に立ち、ファンに向かって感謝の意を述べている。
「私は福岡ハードバンクスから、新球団トレードという形で、この北関東ビクトリーズにやって来ました。しかし、なかなか思うようにはいかず、春のキャンプ、オープン戦と消化していくにつれて、キャプテンとして正直不安な時期を過ごしていました。
開幕から12試合で1勝11敗と大きく負け越してしまった時は、家に帰っても、なかなか眠ることは出来ませんでした。
本当にこれで1年間戦いきれるのか、このチームでやっていけるのか、不安で仕方ありませんでしたが。そんな時チームを引っ張ってくれたのは、若い選手達でした。
私と同じくトレードでビクトリーズにきた、守谷。ルーキーの連城、碧山、桃白、柴崎。………そして浜出。たくさんの選手達が胸を張って堂々とプレーしてくれました。………そんな彼らの姿に我々おじさん達も……」
あれー? キャプテーン!俺を忘れてますよー!
阿久津さんの挨拶タイムが終了すると、バックスクリーンに、1年間ご声援ありがとうございましたと表示が出て、最後にフェンスに沿うようにしてグラウンドを1周する感じになった。
スタンドのファンに手を振りつつ、ベンチ裏でいくつものカゴの中で山積みになっていた、マスコットであるビック君とトリーズちゃんの人形やサインボールを投げ込みながら、選手達は歩いてグラウンドを徘徊していく。
「コラー、こっちに投げなさーい!」
1塁ベンチ辺りに差し掛かった時、ネットにしがみつくようにして、麗し?のギャル美がここぞとばかりに、俺に向かって喚いていた。
もうアミアミのところに、ツヤツヤネイルの指が食い込むくらいに力が入りながら、血眼になって、俺を睨み付けるギャル美。
別にマスコット人形やサインボールなんて、帰ってからいくらでもあげられるのに。
こういう場所でもらうからまた特別なんだろうか。
俺はそんな風に考えながら、知り合いだからと言って贔屓はいけないので、一応はギャル美達のいる方向に人形とボールを適当に投げてみたのだが。
ネットの1番前に張り付かれては、俺が投げ込んだそれを受け取ることは叶わず。放物線的に、ギャル美のちょっと後ろのちょうどいいポジションにいた人が難なくキャッチして喜んでいた。
振り返ってその様子を目にしたギャル美がまた怒る。
「コラー、下手っぴ! そんなんじゃ、ゴールデングラブ賞は取れないわよ!!」
ハナからそれは無理だよ。
「いやー、チカれたぜー」
「お疲れ様、新井くん。今日もさすがの活躍だったね」
家に帰り、シャワーを浴びてみのりんのお部屋へ。
いつもより手の込んだテーブルいっぱいのご馳走を4人で取り囲む。
そしてみのりんが俺の労をねぎらうように微笑みながら、シェパードが水道橋ドームの看板にぶち当てた副賞の缶ビールを傾ける。
グラスいっぱいに注がれた黄金色のビール。
それをごくごくっと飲み干すと、体の火照りとシーズンの疲れが弾け飛んだ気がした。
「はぁー、うまー!!」
俺の横でギャル美も、ポニテちゃんが注いだビールをグビグビと飲む。
左手に俺があげたばかりのサインボールを握りしめながら。
カルパッチョを美味しそうに頬張りながら、幸せそうな表情を浮かべている。
「ほんとあんたはよく頑張ったわよねえ。打率4割なんでしょ? 今までのプロ野球で1番打率が高いんだってねえ」
「まあ、規定打席には達してないから参考記録扱いだけどね」
「参考記録だなんてとんでもないですよ。たった16打席しか足りてなかったんですし、正真正銘の4割打者と言っても差し支えありません、はい! 右打者ですし!」
ポニテちゃんも、少し顔を赤くしてテンションと胸の位置が上がっている。
「それに新井さんは、ギネス記録にも認定されたんです! これはもう誰にも真似出来ません!いわゆる三振が少ないと言われるバッターでも、年間50個は三振をするものなんです!
そういう意味では、新井さんは唯一無二! 420回も打席に立って三振が0個! あり得ません!! つまり、新井さんが最強です!! …………ヒック」
今日はなんだかポニテちゃんがそんな感じでやたら俺を褒め称え、祭り上げる。
「分かったら落ち着きなよ」
ポニテちゃんの隣に座るみのりんがそう諭す。
しかし、ポニテちゃんの勢いと揺れは止まらない。
「さらに新井さんは新人王もほぼ確定的だと、私は考えます!! 一般的には、ピッチャーなら10勝、バッターなら打率3割と言われている中で、新井さんはなんと打率4割!
チームプレーも怠りませんし、ムードメーカーとしても欠かせない存在だと聞きましたし! 確かに外野の守備力は正直イマイチですが……
チームが最下位だったとはいえ、貢献度という意味ではルーキー選手の中ではダントツだと思われます!年俸320万円なのに!」
まあ、新人王に関しては北海道に14勝を挙げたルーキーピッチャーがいるからそっちだと思うが、ポニテちゃんがそんな風に言ってくれて悪い気はしない。
やっぱり俺の守備はイマイチなんだ。
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