スカイスターズも必死です。

「おっと、東京スカイスターズは先発のドンコラスがこの回でマウンドを降りましたね。……代わって出てきたのは石川です。今シーズンはここまで15試合の登板で勝ち負けなしの3ホールド。防御率は2、87。


軟北高校(なんぼくこうこう)から竜神大学(りゅうじんだいがく)社会人の関西運輸(かんさいうんゆ)を経てドラフト6位入団のプロ2年目の選手ですね、本宮さん」


「ええ。ルーキーイヤーの時は、キャンプから調子がよかったんですけどね。肘のケガがありましたからね。去年はほとんど投げられていなかったんですが。


今年は2軍でずっといいピッチングしていましたからね。9月に1軍上がってからも、持ち味を発揮していますよ。


まあ交代になってしまったドンコラスも決して調子が悪いわけではなかったんですけど……もう後がないですから。今日はどんどんピッチャーをつぎ込んでいくという、そういう方針でしょうからね」






あれ? 長身の外国人ピッチャーが全然出てこないと思ってたら、マウンドには見慣れない右のサイドスローが出てきた。


足を上げてからタメのある投球フォーム。そして真横から腕を振って投げ込んでくるクセがありそうなボール。


せっかくみんなドンコラスのボールに慣れてきた頃だったのに。



東京スカイスターズさんは何が何でも勝ちにくるつもりか。






「4回表、北関東ビクトリーズの攻撃は……4番、ショート、赤月」



代わったピッチャーの様子を伺いながら、4番の赤ちゃんが左バッターボックスに入る。



スコアラーの話だと、9月頭に1軍に上がってから、主に中継ぎ起用されていたというマウンド上の石川投手。球速は最速145キロくらいで、持ち球は右打者の胸元に食い込むシュートと逆側に逃げていくスライダーとのこと。



コントロールは少しアバウトなところがあるらしいけど、ちょっとクセ球系のピッチャーは嫌だなあと思っていたら……。



カンッ!



赤ちゃんがアウトコースのボールを見事な流し打ち。ショート平柳君の頭の上を越えるレフト前ヒット。


高校球児のように打球を見ながらしっかり大きくオーバーランをして1塁に戻りながら肘当てを外して、1塁ベースコーチおじさんとグータッチ。ヒットの手応えを思い出すようにウンウンと赤ちゃんは頷く。



さらに5番のシェパードもいい当たり。インコースに入ってくるスライダーを捉えて1、2塁間を破るヒットかと思ったら、インフィールドライン上でセカンドが横っ飛び。


シェパードの痛烈な打球をはたき落とし、すぐに拾い直して1塁は間一髪アウト。



1アウトランナー2塁となった。






カンッ!



「6番桃白もいい当たりだ! 上手いバッティング、三遊間を破っていきます! レフト前ヒット! 2塁ランナーの赤月は3塁を回って、生還なるか!?………レフトからホームにボールは返ってきません! ホームイン! ビクトリーズ、桃白のタイムリーで1点返しました! 5ー2です!」



若干大きく膨らみながらの赤ちゃんがホームベースにズザザーッと豪快に滑り込んで、ベンチ全体がよっしゃあ! っと盛り上がる。


ヘルメットを小脇に抱えて、おケツや足を土で汚しながら、汗ほとばしる勢いで赤ちゃんがベンチに返ってきた。



俺も立ち上がって彼を出迎える。


「イエーイ! 赤ちゃん、ナイバッチ!!やるねえ!」



「イエーイ!!」



「アカサーン! ナイスデース!!」



隣でシェパードも大きな右手を赤ちゃんに向ける。



「イエーイ! シェパード、惜しかったな。もうちょっとだったのに」



赤ちゃんがセカンドのファインプレーに阻まれたシェパードの1打を思い出すと、シェパードがまた悔しそうな表情をした。わりかしちゃんと言葉が通じたみたい。



「ダイジャブ、ダイジャブ、ツギハウチマス!」



「ダイジョブ、ダイジョブな」



俺はスルーしたが、ホームインした興奮状態の中でも、いちいち訂正してあげる赤ちゃんであった。







「7番鶴石がバッターボックス………。打ちましたが、インコース詰まらされました! ボテボテのサードゴロ。捕って……2塁は無理! 1塁へ送球アウト。アウトは1つだけ。2アウトランナー2塁に変わります。ここはインコース、いいところに投げ込みました」


4、5、6番と左バッターが続いたところでチャンスを作り1点を取ったが、7番鶴石さんはアウトコースでカウントを整えられ、最後はインコースに食い込むシュート。必死に腕を畳んで打ちにいったが詰まった打球になりサードゴロ。


そして打席には8番の守谷ちゃん。今シーズンの打率は2割3分だが、最近は好調気配だ。




1ボール1ストライクからの3球目。真ん中低めのストレートを守谷ちゃんがコンパクトなスイングで叩く。


打球は低く飛んでいく。



「打ちました! いい当たり!1、2塁間破っていきます! 2塁ランナー桃白は3塁を回った……ところでストップです! ライトからいい返球がきました。これでは返れません。


………さあ、しかし8番守谷も繋ぎましたビクトリーズ。2アウトながら1、3塁です。………東京スカイスターズ側。1塁ベンチからピッチングコーチが現れてマウンドに向かいますね。内野陣が集まります」

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